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「給付金、今すぐくれないなら死ぬ」なぜ男性は窓口で自分に包丁を向けたのか 孤独と貧困と誤解と

千葉県松戸市役所。奥の新館7階で事件は起きた=千葉県松戸市で2020年6月26日午後3時52分、斎藤文太郎撮影

 新型コロナウイルス流行に伴って政府が一律10万円を渡すと決めた特別定額給付金を巡り、千葉県松戸市役所で5月、「今すぐもらえないなら死ぬ」と言って刃物を自分に向けた無職の男性(39)が逮捕された。なぜそこまで追い詰められたのか。知りたくて男性を訪ねた。

 5月13日に市役所で現行犯逮捕された男性は、同22日の起訴後も千葉県警松戸署で勾留されていた。

 6月中旬、同署の接見室に出向いた。部屋に入る際、係官から「事件の内容に関することは話しちゃダメですから」と注意される。まもなく、接見室の透明な板の向こうに男性が姿を現した。猫背気味で想像より小柄。上下スエット姿で、丸刈りがそのまま伸びたような髪形だ。

 うつむきながらも、視線はこちらに向けてきた。事件を起こした理由は何だったのか。男性は冗舌に話し始めた。

 「事件前、何も食べてなかったんです。給付金が出ると聞いて、いつもより金を使ってしまって」

 男性は生活保護を受けていた。しかし、給付金がすぐに支給されると思い、米や肉などを買い込み、すぐに食べきった。その後の3~4日間はコーヒーだけで空腹をしのいだが、それも事件当日の朝になくなったという。

 生まれ育ったのは埼玉県三郷市。小学校時代は卓球部、中学時代はバスケット部に所属した。「特に活躍していません。隣の市の公立高に進みましたが、『中の下』くらいの成績でした」

 高校2年の時に両親が離婚し、母親、兄と生活するようになった。「家庭内がギクシャクして、高校卒業後は定職に就かず、コンビニや工場などのアルバイトを転々としました」

 15年ほど前には家族に暴力を振るわれ、うつ病になった。家族から「出て行って」と言われ、松戸市に転居。重いうつ状態の日は仕事ができず、生活保護の受給を始めた。2年ほどで症状が落ち着き内装業の職を得たが、1年後に再び悪化した。以来、10年以上、生活保護が頼りだった。

 金銭管理は以前から苦手で、月ごとに振り込まれる保護費を支給日の前に使い切ったこともある。

 管理の仕方を助言してくれるような、頼れる友人もいないという。市のケースワーカーとも1~2年会っておらず、唯一の友人ともここ5~6年は疎遠という。「家族とも絶縁状態です。逮捕後に面会に来たのは弁護士と記者だけですよ」

 接見の時間は15分と決められている。署を出ると、男性が住んでいたアパートを訪ね、3人の住人に会った。だが、いずれも男性のことは知らなかった。男性は困窮状態を誰にも相談できない孤立状態に見えた。

 別の日の接見では給付金について尋ねた。男性は申し込みが始まると「すぐに申請した」と話した。生活保護の受給者が給付金を受け取ることに、ネット上では批判的な声が出ていた。「国が配ると決めたもの。ありがたくもらいたいなって。最初から(受給者に)渡さないと言われていれば期待も怒りもない」

 給付金に期待しつつ、手持ちの金が尽きたのは申請から9日後の5月10日のことだった。財布にあるのは20円のみ。12日夕、市役所に電話し、いつ給…

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