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#セカンドキャリア

五輪の夢あきらめ、創業190年の老舗再建 有名人も通う手打ちそばと天ぷら

経営するそば店に立つ益川雄さん=東京都千代田区の松竹庵ます川で2020年6月5日、藤井太郎撮影

 創業190年の老舗そば屋。一度は閉めた店を生まれ変わらせた8代目店主、益川雄さん(35)は、スキー・モーグルでオリンピックを目指すトップ選手だった。無謀な練習で痛めた体、うどんチェーン店でのアルバイト、手打ちそばと天ぷらへのこだわり……。第二の人生で見つけた頂への道には、現役時代の悔しさが隠されていた。【円谷美晶】

 東京・神田の老舗そば屋「松竹庵 ます川」。1830(天保元)年創業だが、外観はモダンなたたずまいだ。中に入ると、L字形のカウンターに囲まれたオープンキッチンの中で、かっぷくのいい男性が天ぷらを揚げている。現役時代より30キロ太ったという益川さん。揚げたての天ぷらを丁寧に皿に盛る。

 「お待たせしました。こちらは京都・賀茂ナスの天ぷらです。そばのおかずに合うのは天ぷら。天ぷら屋のような天ぷらを出して、いいそばで締めてもらうのがコンセプトなんですよ」

 大きめに角切りされたナスの表面を淡いキツネ色の衣が薄く包む。口に入れると、少しの油と野菜の汁がジュッと広がった。名物の天ぷらは、天然アユやズッキーニ、ホタテなど多彩。毎朝、こだわりの野菜や海鮮を市場で買いそろえる。締めのそばはつなぎをつかわず、そば粉だけで作った十割そばだ。

 「自分の代から手打ちに変えました。以前は機械打ちの二八そばだったのですが、そば屋になるなら自分の手で作ったものを出したいと思い、十割そばにしました。香り高く、しっかりとした味と食感が特徴です。最後は、そば湯をどうぞ。そば粉を溶いているだけなのでとろとろです」

 両親がスキー好きだった。東京都内から新潟のスキー場まで車で片道3時間。3歳の頃から通い、冬は毎週末、雪の上で夢中になって滑った。そこでモーグルと出合う。

 「今でも鮮明に覚えています。お兄さんたちがジャンプ台を作って技を跳んだり、急な斜面をすごいスピードで滑ったりしていて、かっこよかった。近くで見ていたら誘ってくれました。怖さはなくて、ごろごろ転がって練習していました」

 モーグルは、こぶがある急斜面を滑り、速さとターン技術の正確さ、2カ所のジャンプ台で見せる「エア」と呼ばれる宙返りなど、空中での演技の難易度や完成度を得点化して順位を争う。「オリンピックに出たい」と9歳で本格的に競技を始め、長野県の飯山南高にスキー留学。高校3年だった2003年には、青森冬季アジア大会で金メダルを獲得した。

 「高いジャンプとスピードが強みでした。競技を始めた時からずっとオリンピックに出たくて、国際大会で優勝している人ばかり気にして見てましたね」

 トリノ五輪代表入りが懸かった06年1月のワールドカップ(W杯)。国内選考基準にわずかに届かず、17位に終わった。05年の世界選手権では日本人トップの6位に入賞し、最有力候補と前評判は高かっただけにショックは大きかった。

 「期待して応援してくれた人たちの顔が浮かんで、日本に帰れないと思いました。人生を懸けていたのに、五輪に出られなかった。練習不足だったとは今でも思いませんが、何かが足りなかったのでしょう。帰国後も自宅がある東京には戻らず、長野で真っ暗な部屋に引きこもっていました。その後も引きずって……。コーチの言うことを聞かずに海外に行き、疲労も考えず練習し続けました」

 多いときは1日12時間も練習に明け暮れた。無謀な練習で痛んでいった体は、ある日壊れる。07年1月、カナダで行われたW杯の直前練習でジャンプの着地をした際、腰を痛めた。

 「下半身が無くなった、と思いましたね。そのシーズン中はずっと歩けなくて、試合に出られない、日常生活も満足に送れない。次のシーズンは痛み止めを飲みながら大会に出て、終わるとまたリハビリ施設に戻る繰り返し。手術したら五輪に間に合わなかったので、トレーニングで補おうとしました」

 五輪の夢はあきらめきれなかった。そんな時、実家で異変が起きた。08年春、父民次さん(72)の糖尿病が悪化。店に立つことが難しくなり、「他の人に…

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円谷美晶

毎日新聞東京本社運動部。1985年、東京都生まれ。2009年入社。北海道報道部、千葉支局を経て、東京社会部では気象庁や東京都庁を取材。18年から東京運動部で五輪取材班となり、体操、トライアスロンなどを担当。高校までの部活動は陸上で中・長距離の選手。いつも皇居周りを走っていた。

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