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ネット上で「小さな授業」 新型コロナ禍、教育格差対策へ学習支援=中川悠 /大阪

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学習支援に取り組む佐々木宏昌さん 拡大
学習支援に取り組む佐々木宏昌さん

 新型コロナウイルスの影響で休校していた学校が再開した。校内での感染をどう防ぐか、第2波への対策をどうするか。教育機関は日々、揺れている。そして地域の中でも、学習を支援する地道な取り組みが続いている。

 「神戸みらい学習室」(神戸市)は、経済的な事情で一般の塾に通えず、学校の授業についていけない中学生向けの無料の学習支援教室だ。生活保護世帯や子育ての支援など福祉系の職務に長く携わった市職員の佐々木宏昌(ひろまさ)さん(50)と職員有志が2017年、貧困の連鎖を断ち切りたいと開設した。生徒は現在20~30人。大学生らのボランティア約30人が毎週日曜日、勉強を教えてきた。

 佐々木さんは「新型コロナで休校が長引く中、教育格差をどう縮めていくか。試行錯誤の連続でした」と話す。塾に通える生徒との間に格差がさらに開いてしまう危機感から、オンライン授業の準備に取りかかった。しかし問題は山積み。パソコンを持たない生徒、無線でインターネットに接続する「Wifi」機器が家にない生徒もいた。

ボランティアの大学生がオンラインで中学生を教える仕組み=神戸みらい学習室提供 拡大
ボランティアの大学生がオンラインで中学生を教える仕組み=神戸みらい学習室提供

 危機を救ったのは、講師を務める大学生だった。学生自身も通学できず、講義もオンライン。熱心な学生がそのスキルを学習支援に活用したいと手を挙げたのだ。中学生でもスマートフォンさえあれば、ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」を使って1対1の授業ができる。オンライン上の「小さな授業」が、次々と学習室で実現した。

 一方、佐々木さんは今春から市企画調整局つなぐラボの特命課長に就任したばかりだった。「今までの経験や人とのつながりを施策として実現したい」。学習室の経験をベースに行政として支援に取り組めば、より多くの子どもを支えられると考えた。

 佐々木さんはすぐに、市による生活困窮者向けのオンライン学習支援事業の提案をまとめた。民間の「家庭教師のトライ」と連携し、個別同時双方向型の支援を開始。市教育委員会による生徒へのWifi機器の貸与事業とも組み合わせた。講師となる学生を募集したところ、50人の枠に260人もの応募があり、意欲の高さも示された。

 2016年の厚生労働省「国民生活基礎調査」によると、日本の子どもの貧困率は13・9%で、およそ7人に1人が貧困状態。佐々木さんは「意欲のある子に選択肢を増やしてあげたい。その上で、そこにも来られない子にどう来てもらうか。それが大きな課題」と指摘する。

 一方、新型コロナ禍で気付いた新しい視点がある。それは「リアルな場所に来られない不登校の子どもの学習を応援できるのでは」ということ。オンラインは場所という制約を軽く飛び越えていく可能性がある。「新型コロナの経験を子どもたちの応援に役立てていきたい」と佐々木さん。地域の中に隠れている目に見えないSOSに答えるため、今日も市内の現場に向かう。<次回は8月21日掲載予定>


 ■人物略歴

中川悠(なかがわ・はるか)さん

 1978年、兵庫県伊丹市生まれ。NPO法人チュラキューブ代表理事。情報誌編集の経験を生かし「編集」の発想で社会課題の解決策を探る「イシューキュレーター」と名乗る。福祉から農業、漁業、伝統産業の支援など活動の幅を広げている。

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