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内田麻理香・評 『病魔という悪の物語 チフスのメアリー』=金森修・著

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『病魔という悪の物語 チフスのメアリー』
『病魔という悪の物語 チフスのメアリー』

 (ちくまプリマー新書・836円)

弱者ほど不利、変わらぬまま

 今も世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスはさまざまな問題を浮かび上がらせた。感染者や、クラスターを発生させた場へのバッシングもその一つであろう。

 百年以上前に、「チフスのメアリー」と呼ばれ、「毒婦」「無垢(むく)の殺人者」と恐れられた女性がいた。彼女は腸チフスの健康保菌者で、発病はしないが感染源となり、五〇人近くに病を伝染させた。そのメアリー・マローンの生涯を追った本書は、二○○六年に刊行されたが、コロナ禍に読むべき本として緊急復刊された。新型コロナウイルスも、誰もが感染源となる可能性もある。「チフスのメアリー」の物語は、私たちと地続きだ。

 アイルランドからアメリカに移住してきたメアリーは、賄い婦として働いていた。彼女は料理が上手(うま)く、子供たちの面倒見も良かったので、雇い主たちから信頼を受けていた。三七歳のとき、彼女の人生は一変する。メアリーが雇われていた複数の家庭で、腸チフスの患者が発生し、死亡者も出たことが判明した。メアリーは腸チフスの保菌者として拘束され、病院に収容された。彼女が送られた先は、天然痘や結核などの伝染病に感…

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