メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

「恥ずかしいこと」 50年、誰にも話さず生きてきた 不妊手術国賠訴訟、16日に初弁論

国に「責任をあいまいにせず、きちんと謝罪してほしい」と訴える朝倉典子さん=福岡市内で2020年7月9日午後9時50分、山口桂子撮影

[PR]

 旧優生保護法(1948~96年)下で不妊手術を強いられ、憲法が保障する幸福追求権などを侵害されたとして、共に聴覚障害のある福岡市の夫婦が国に計2000万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が16日、福岡地裁で開かれる。夫は結婚直前に何の説明もないまま不妊手術を受けさせられていた。手話で取材に応じた夫婦は「子を持つ夢さえ持てなかった。国がきちんと過ちを認めて謝罪してほしい」と訴えている。【山口桂子】

 朝倉彰さん(82、仮名)と典子さん(78、同)。彰さんは生まれながらのろう者で、典子さんは、1歳半の頃に耳の病で聴力を失った。2人は福岡県内の別々のろう学校に通っていた高等部の頃、九州内のろう学校の生徒が集まる卓球大会で知り合い、卒業後、交際に発展。共に洋裁の仕事に就いた2人は67年10月に結婚した。

 不妊手術を受けさせられたのは、結婚の1週間ほど前のことだった。彰さんは、勤めていた紳士服の縫製をする個人商店にいつものように出勤。なぜかその日は職場に父が訪ねて来て、社長と話し始めた。会話の内容は分からなかったが、社長に呼ばれ近くの小さな病院に連れて行かれた。

 「病気はないのに何だろう」と疑問に思いながらも、幼い頃から「聞こえる人には従いなさい」と言われてきたこと、また、社長には仲人を頼んでいたこともあり、社長や医師に言われるがままに従った。その場に手話ができる人もいなかったためコミュニケーションは取れず、医師からズボンを脱ぐよう指示され、下半身に麻酔を打たれて手術が始まった。

 術後は激しいかゆみや腹痛に見舞われた。その後参加したろう者の集まりで、障害者に対する不妊手術があることを知り「自分が受けたものかもしれない」と思った。だが彰さんは、恥ずかしさや抵抗できなかった自身を責める気持ちから、典子さんにも術後半年ほどたつまで打ち明けられなかった。

 元々2人とも子どもが好きだった。特に、おいっ子たちをかわいがっていた典子さんは、手術のことを知ってからめまいなどの体調不良に苦しんだ。一時は家出し、離婚も考えたが、家族からも説得され最終的には子どもを持つことを諦めて家に戻った。それ以来、夫婦は手術を「恥ずかしいこと」として誰にも話さず生きてきた。

 訴訟に踏み切ろうと決意したのは、旧優生保護法を巡る最初の裁判となった仙台での提訴(2018年1月)のニュースを見てからだ。それまで、日常生活の中で多くの諦めや我慢を強いられてきたため、「『仕方ない』と思うことが習慣のようになっていた」と典子さんは振り返る。けれど「そうさせてきたのは、旧法を作り出した国であり、社会。私たちの裁判が障害者への差別を考えてもらうきっかけになれば」。両手のこぶしを胸の前で握って上下に動かす「頑張る」を表す手話で、力強く語った。

「除斥期間」が争点に

 全日本ろうあ連盟によると、強制不妊などの手術を受けさせられたことが判明している聴覚障害者は3月末現在、全国31都道府県の168人に上る。連盟は聞き取り調査を重ねているが、本人が亡くなっていたり、存命でも被害を訴えることを望まなかったりして、実際の被害人数はさらに多いとみられる。

 1957年に不妊手術を受けさせられた男性が2018年5月に提訴した国家賠償訴訟で、今年6月の東京地裁判決は、旧法が改定された96年時点で訴訟を起こすことができたと指摘。男性について、不法行為から20年で損害賠償請求権が消滅する「除斥期間」が経過し、請求権が消滅したとして、訴えを棄却した。

 福岡の夫婦の訴訟でも「除斥期間」が争点になる見込みだが、夫妻は「長い間、弱い立場に置かれてきた当事者たちにとって、声を上げることさえ難しかったということを知ってほしい」と訴えている。

おすすめ記事
広告
毎日新聞のアカウント
ピックアップ
話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. 女性に無断で堕胎させた疑いで外科医を逮捕 麻酔薬飲ませる 岡山県警

  2. 「わー、よかった」明るい娘に“嫌な予感” 「キッズライン」性被害 母が証言

  3. まるで浦島太郎…「なぜマスク姿なの?」 3カ月間の昏睡から目覚めたロシアの男性

  4. どう防ぐ ベビーシッターによる性犯罪 「見抜けなかった…」絶句する母

  5. コロナ休校で10代の妊娠相談急増 性教育の機会なく、バイト中止で避妊具買えず

編集部のオススメ記事

のマークについて

今週のおすすめ
毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです