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「映画宣伝から監督の名が消えた」 長澤まさみ主演「MOTHER」プロデューサーに聞く日本映画の今

佐藤さんがプロデュースした「MOTHER マザー」は、14年に起きた少年による祖父母殺害事件に着想を得て映画化した。主演の長澤まさみさん(右)と、同作がデビューとなる奥平大兼さん(C)2020「MOTHER」製作委員会

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 「新聞記者」(2019年)や「宮本から君へ」(19年)など、近年、次々と話題作・ヒット作を放つ映画会社「スターサンズ」(東京都渋谷区)。「日本映画の多くは国内市場主義に陥っています。ベストセラーの映画化や人気スターの出演が売りとなる時代が長すぎました」。そう指摘するのは、同社でプロデューサーとして活躍する佐藤順子さんだ。【西田佐保子】

映画の「テーマ」に興味がある

 エグゼクティブ・プロデューサーを務める河村光庸(みつのぶ)さんら計3人で映画製作・配給を行うスターサンズ。「問題作を世に送り出す映画会社」というイメージを持たれることも多いが、「意図しているわけではありません」と佐藤さんは言い切る。「映画のテーマに興味があります。少し格好つけた言い方ですが、映画は時代を映す鏡。私も河村も、新しい価値観を与えてくれる映画を求めています」

 さらに、ここ数年、日本の映画業界に、ある違和感を持ち続けてきたと吐露する。「製作されるのは国内マーケットを重視した映画ばかり。映画の製作費を国内でリクープ(資金回収)できる時代が長かったから、今も“累計何万部売れたベストセラーの映画化”や“人気のスターが出演”などを売りにした映画ばかり作られています。映画宣伝から監督の名が消えていきました」

 特に大手の映画製作会社でその傾向が顕著だ。「狙いが同じだと、似たような映画しか生まれません。多様性なくして文化は活性化しません」。大手と同じ土俵で闘わない。それは同時にスターサンズの戦略でもある。「私たちのような独立系の映画会社は、大手とは別のところで勝負しないと映画を作り続けることはできないですからね」

 映画業界で、製作、配給、興業、すべての業務を経験してきた佐藤さん。学生時代にアルバイトとして働いていたミニシアター「下高井戸シネマ」(東京都世田谷区)では番組編成を担当し、大学卒業後は出版社に就職。だが「どうしても映画の仕事をしたい」と退社し、1995年にオープンしたミニシアター「シネ・アミューズ」(東京都渋谷区)=09年に閉館=の立ち上げに携わった。当初はアルバイトだったが、半年後には同館を運営する「アミューズシネカノン」の社員となり、入社2年後に24歳の若さで「シネ・アミューズ」の支配人となった。

「ケン・ローチ監督などヨーロッパ映画に影響を受けてきた」と語る佐藤順子さん=東京都新宿区で2020年6月26日、西田佐保子撮影

 スターサンズに入社したのは10年。洋画の買い付けや邦画の委託配給など行うなか、最初にプロデュースした映画がヤン・ヨンヒ監督による初の劇映画「かぞくのくに」(12年)だ。「彼女の生い立ちを聞き、『これは映画になる』と確信しました」。同作は第62回ベルリン国際映画祭フォーラム部門でC.I.C.A.E(国際アートシアター連盟)賞を受賞。国内でもロングランのヒットとなった。

監督を育てていきたい

 「かぞくのくに」に続き、「二重生活」(16年)、「あゝ、荒野」(17年)、「愛しのアイリーン」(18年)、「宮本から君へ」を手がけてきた佐藤さんの最新プロデュース作品が、3日に公開された「MOTHER マザー」だ。

映画「MOTHER マザー」の一場面(C)2020「MOTHER」製作委員会

 男にだらしなく、その日暮らしのシングルマザー、秋子(長澤まさみ)は、息子の周平(奥平大兼)に異常な執着をみせる。“共依存”ともいえる関係を続ける2人は、次第に身内からも絶縁され、社会から孤立していく。17歳になった周平に、秋子はあることを命ずる――。

 17歳の少年が生活苦から祖父母を殺害して金品を奪った祖父母殺害事件の記事を、6年前に新聞で読んだ河村さんの発案から企画は動き始めた。ただ、直近に起きた事件だったこともあり、一度寝かせ、監督に大森立嗣さん、主演に長澤まさみさんを迎えて、19年5月に撮影がスタートした。

 大森監督を起用した理由は、「『ぼっちゃん』『タロウのバカ』など、社会の真ん中からはじき出された人たちに対する視線が厳しくもやさしいから」だと語る。長澤さんについては、「このテーマでリアルさを追求するとつらい作品になります。でも甘くはできません。長澤さんは“はつらつ美人”というイメージがあるけれど、どこか自分の美しさを持て余しているような感じがして、そのギャップが面白いと思って、河村が(出演交渉に)体当たりしました」

 「『やらなきゃいけない』という気持ちを持ってくれたようです」。長澤さんは意外にも「やりたい」と即答し、秋子というキャラクターについて、「この母親は許せる人物ではないので、観客が共感を抱くような演技はしたくない」と話したという。

 「撮影中も、監督、役者、スタッフが、映画のテーマに対して葛藤し続けた作品です。撮影期間も短く、不安もありました」と佐藤さん。完成した映画を見た感想は「不思議な映画ができたと思います。もっとつらい作品になると思っていたら、ラブストーリーになっていました」。また、ラストシーンの長澤さんを見て「すごい表情が撮れました」と語った。

 スターサンズは、来年もすでに公開予定作品を2本発表している。「ヤクザと家族 The Family」では「新聞記者」の藤井道人監督を、「空白」では「愛しのアイリーン」の吉田恵輔監督と再びタッグを組む。

 「監督を育てたいという思いはあります。支配人時代は、『映画作家を掘り出す』という使命感のもと編成をしていたし、若い監督を育てなくてはいけないという思いも強かったです。これからも、何本か映画をご一緒して、皆さんに監督を知っていただける映画を作っていきたいですね」

 映画プロデューサーとして映画製作に携わるにあたり、10年にわたる支配人としてのキャリアや、映画の買い付け、宣伝業務など、これまでの経験が「めちゃくちゃ役に立っています」という。「支配人時代には、いろいろな映画会社の方から脚本を読ませていただいたり、キャスティングについて相談を受けたりしたし、海外の映画祭では、日本映画がどのように見られているのか、どのようなマーケットがあるのかも学べました。おかげでビジネスの根底が分かるし、数字も頭に入っています。業界における映画の仕事をほぼ全部やらせてもらったことに感謝しています」

 最後に、映画業界で25年以上働き続ける理由について聞くと、「うーん、これしかできないからかな、もはや」と笑いながら答えた。


さとう・じゅんこ

 東京生まれ。スターサンズ取締役。企画製作プロデューサー。1995年にアミューズシネカノンに入社。渋谷にあったミニシアター「シネ・アミューズ」(閉館)の支配人を経て、2010年に株式会社スターサンズ入社。「かぞくのくに」「二重生活」「あゝ、荒野」「愛しのアイリーン」「宮本から君へ」などをプロデュースした。

上映情報

 【MOTHER マザー】

TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中

公式ウェブサイト :https://mother2020.jp/

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