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若島正・評 『賢者たちの街』=エイモア・トールズ著、宇佐川晶子・訳

『賢者たちの街』

 (早川書房・3630円)

 時は一九三八年。マンハッタンでタイピストとして働いていた、本書『賢者たちの街』の語り手であるケイト・コンテントは、バラード曲「ニューヨークの秋」がラジオから流れてくるのを聞く。歌っていたのはビリー・ホリデイ。「ニューヨークの秋/なぜこんなに魅力的なの?……ニューヨークの秋は/新しい恋の予感を連れてくる」。それから三十年近くが経過して、すっかり社会的に成功を収め、上流社会の一員になったケイトは、当時を振り返りながら、魅惑にあふれたこの曲に対して、こう疑問を持つ。「そんなに気分を高めてくれる歌なら、どうしてビリー・ホリデイはあんなに上手に歌ったのだろう?」

 本書の語り口の巧みなところは、手の内をすべてさらけ出してしまわない点にある。隠すことは慎みなのだ。宙吊(ちゅうづ)りになっているケイトの疑問に対して、読者が答えてみればこうなるだろう。すなわち、ケイトが引用している「ニューヨークの秋」の歌詞は二番の最初で途切れているが、その後に続くフレーズは「ニューヨークの秋には/よく痛みが混じる」だ。そして、いちばん痛みをよくわかっていた歌手はビリー・ホリデイ…

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