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渡辺保・評 『評伝 一龍齋貞水 講談人生六十余年』=塩崎淳一郎・著

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『評伝 一龍齋貞水 講談人生六十余年』
『評伝 一龍齋貞水 講談人生六十余年』

 (岩波書店・2200円)

人間のリアルを突き詰めた芸

 講談の第一人者一龍齋貞水の評伝である。

 前後三部に分かれていて、第一部が貞水の八十年余の伝記。第二部が講談の演目の分類と芸談。そして第三部が貞水が付き合った先輩たちの思い出話である。

 貞水は湯島天神下の日本画家の息子に生まれた。別に講談が好きでもなんでもなかったが、高校受験を終えていよいよ進学してまもなく、父の友人であった講談の邑井貞吉(むらいていきち)の所へ遊びに行った。そこで貞吉に講談をやらないかと誘われて、高校をやめて講談の世界に入ってしまった。初高座は、学生服のままだったというから観客もビックリしたろう。貞吉は弟子を取らなかったので、一龍齋貞丈の門に入り、前座、真打となって、講談の灯を守って人間国宝になって今日に及ぶ。その伝記も奇想天外で面白いが、なによりも面白いのは、第二部の芸談である。

 貞水は、「立体怪談」という照明や仕掛けで見せる怪談ものを得意にしているが、幽霊というものは、身分制度によって出来るのだという。たとえば「播州皿屋敷」の腰元は殿様のお手討にあう。悔しいが殿様と腰元では身分が違うから手も足も出ない。そこで幽霊になって復讐(ふくしゅう)する。その復讐を見て観客も喝采する。つまり幽霊はこの身分の違いを乗り越えるために作られたものだという。

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