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開成中高生がネット中傷に見た「人間の弱さ」と「破壊願望」 ある授業の到達点

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2012年当時、中学2年生が書いた解答用紙の一部=横浜市内で2020年7月15日午後3時17分、宇多川はるか撮影
2012年当時、中学2年生が書いた解答用紙の一部=横浜市内で2020年7月15日午後3時17分、宇多川はるか撮影

 SNSによる誹謗(ひぼう)中傷が大きな問題になる中、インターネットとどう向き合っていくのか。とりわけ教育現場の役割は重要だ。全国屈指の進学校、開成中学・高校(東京都荒川区)では8年前、ある「課題図書」を授業で取り上げ、ネット中傷について徹底的に考えたという。その課題図書とは、そこで交わされた議論とは……。【宇多川はるか/統合デジタル取材センター】

国語科教諭が見つけた「これだ!」

 私はSNSによる誹謗中傷問題を取材する中で、中傷被害経験のあるお笑い芸人、スマイリーキクチさん(48)に取材をした。スマイリーキクチさんは「殺人関与」などのデマに長年苦しめられ、事件にも発展。その後、芸能生活のかたわら、ネットリテラシーについて各地で講演活動などをしている。そうした話題の中で、スマイリーキクチさんが「僕の本をいち早く授業で使ってくれたのが開成だったんです」と語った。興味を持った私は早速学校を訪ねてみることにした。

 今と同様、子供のゲームやネット依存などが問題になっていた2011~12年度、国語を教える神田邦彦教諭(57)=現同高校教頭=は、広くネットやゲームを巡る問題を考える授業を続けていた。ゲーム依存をテーマにした授業では「リアルな世界(実生活)で自己実現感が希薄な状態が、ゲーム中毒に陥りやすい」という議論に。ゲームだけでなく、ネット上の書き込みはどうか? 新しい題材を探していたところ、たまたま目にしたのがスマイリーさんの著書「突然、僕は殺人犯にされた」だった。姿の見えない中傷犯との闘い、警察・検察との関係、画期的なネット犯罪立件までを詳細につづっており、神田教諭は「これだ!と思いました」と振り返る。

リアルな経験なら、自分で考えるのでは…

 この本を題材にした授業は中学2年生を対象に約10時間にわたって実施した。

 「ネット上の悪質な書き込みは、生徒指導の中でも苦労しているテーマでした。お説教じみた啓発リーフレットを配っても、教室のゴミ箱に捨てられているのがオチ。スマイリーさんのリアルな経験で人生を感じ取りながらだったら、生徒たちが自分自身で思考するのではないかと」

 授業の最後にスマイリーキクチさん本人に来校して講演してもらう、という授業計画を立て、高1、高2を担当する教員も誘い、課題図書として約1100冊入手。生徒1人につき1冊ずつ配った。

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