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詩歌の森へ

文芸ジャーナリスト・酒井佐忠さんの「詩」に関するコラム。

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岡井隆さん逝く=酒井佐忠

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 塚本邦雄らとともに前衛短歌をリードし、戦後短歌に新たな潮流を導いた岡井隆の訃報は、俳人の金子兜太の死のときと同じような衝撃があった。自由な感覚と鋭い批評精神で若い歌人に多大な影響を与えたが、後年は短歌ばかりでなく現代詩との交流も深め、鮎川信夫賞の選考委員を務めたほか詩集も刊行するなど幅広い視野があった。また、斎藤茂吉、森鷗外、木下杢太郎ら近代文学者に目を向け、「詩歌」の源泉を究める視点が際立った。

 数多い著作の中で、肩の力を抜いた一味違う近作歌集が手元にある。『暮れてゆくバッハ』(書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)、2015年刊)だ。題は<ヨハン・セバスチャン・バッハの小川暮れゆきて水の響きの高まるころだ>からとられた。解釈は難しいが、芸術家の晩年、あるいは時代の変化についての思考かとも思われる。ともかく歌集は入院生活などの日常詠が多い。さまざまな日常から生み出される詩歌の力が感受される一集…

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