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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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静岡県を流れる大井川は江戸時代も…

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 静岡県を流れる大井川は江戸時代も橋がかからず、人による「徒(かち)渡し」が行われた。理由は諸説あるが、技術的要因に加え、川越え組織の権益を保護する必要もあったためという(松村博著「大井川に橋がなかった理由」)▲その大井川が、注目を浴びている。リニア中央新幹線(品川―名古屋)整備に必要な南アルプスのトンネル工事を巡り、事業者のJR東海と静岡県が対立する原因となっているためだ▲静岡県は、工事に伴う湧水(ゆうすい)で大井川の水量が減り、流域の暮らしや産業に影響しかねないと主張する。JR東海は水量は維持されると反論するが、県は着工に同意していない。対立の背景には、東海道新幹線の運行に関する両者の確執も指摘されている。川勝平太静岡県知事の強硬姿勢を批判する「静岡悪者論」もあるようだ▲ただし大井川では、これまでも発電用取水などによる水量不足が問題化してきた。かつては流域で「水返せ運動」が起きたこともある。JRは、県が求める湧水の全量回復への対応が遅れた。国も巨費で支援する国策だという意識が、説明軽視につながったことは否定できまい▲明治に入ってから、渡船や架橋に伴い、大井川の人足らは大量失業した。転業して茶畑を開墾したことが、今日の静岡茶につながっていく▲リニアについては、人口減少時代に必要か、疑問視する声も少なくない。地域の歴史を形づくってきた河川の保護とどう向き合うか。越すに越されぬ大井川論争、開発のあり方を問う課題である。

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