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エンタメノート

「工夫して生きていくしかない」~柳家三三さん、演芸写真家・橘蓮二さんに聞く<後>

柳家三三さん(左)を撮影する橘蓮二さん=東京都杉並区で、小磯晴香さん撮影

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 新型コロナウイルスの感染で、寄席や落語会は休演を余儀なくされ、現在も一部再開したものの、入場できる客は定員の半数まで。どんな思いで日々を過ごしているのか。落語家の柳家三三(さんざ)さんと、前座時代から長い付き合いがある演芸写真家の橘蓮二さんに、東京・高円寺に開設されたばかりの橘さんのスタジオで聞いたインタビューの後編です。【油井雅和】

 --芸人さんを一番近くでご覧になっている橘さんは、今の状況と今後について、どう考えているのでしょう。

 橘 それこそ、年が明けた時、だれもこんな世の中になるとは思っていなかったわけです。でも、なってしまって……。その真っただ中にいる。その中にいる時って、過去の歴史もそうだけれど、多分、そこにいる人たちはそこでなんとか生きていく、工夫して生きていくしかない。

 でも、よく評論家とかが言う「ピンチをチャンスに」みたいなのは、あまり好きじゃない。ピンチはピンチなんですよ。大ピンチ、これは間違いない。ただ、このまま朽ちていくわけにはいかないから、みんな頭を使うなり工夫するなりするしかない。

 三三師匠に最初に会った時はまだ前座さんで、「よくご飯が食べられるようになったよね、お互いに(笑い)」という時代を知ってるわけです。お客さん1人だけとか、10人いたら「入ってるね」とか。そんな頃から、せっかくいい状況になってきたのに。

 この先、演芸写真家としてどう関わっていくのか。誰にも分からないけど、印刷物でしょうか。写真集を出すとか、本を出すとか。芸人さんはいるわけです。ただ、生で見られないかもしれない。だけど、こんなにいい芸人さんがいる、というのを紹介していく、というスタンスは変わらないので「この芸人さん、見てください」ということからやっていくしかないかと。

橘蓮二さん(左)と柳家三三さん=東京都杉並区で、小磯晴香さん撮影

 僕らは過去を学ぶことしかできない。昔こういうことがあった時にどうやって生きてきたのかを考えて、なんとかここから先、工夫していくしかないですよね。演芸写真家としては、あくまでも主役ではないし、いてもいなくてもいい商売、芸人さんがいて成立する商売だから、少しでも役に立てることは、写真集とか印刷物でいい写真を撮って、「この人を見たいな」と感じてもらう。それは変わらないです。

 --そんな橘さんを三三師匠はどう思っているのでしょうか。

 三三 どういう時にでも真摯(しんし)に物事を考えている。自分の方が得するようにとか、良くなるようにねじ曲げようとしない、というスタンスでいて、仕事で生きているというのはすごいなあと。そういう人と仕事で関われてうれしいですよね。聖人君子とかではないけれども、取り組もうとすることに対して誠実な気持ちがあります。何かする時に素材として選んでくれるというのは、照れくさいですね。

 --橘さんは三三師匠をどう思われていますか

 橘 生意気なことを言うと、(自分は)写真という表現で生きていて、三三師匠は落語という表現で生きている。やはり、ものを表現する人としての理想形ですよね。だって、余計なことをしないじゃないですか。落語論を語る本を出すとか、大きく見せるために落語以外のことで顔を売ったりとかして、それを落語にフィードバックさせるのではなくて、落語の訴求力だけで勝負して、これだけお客さんに届けられるというのは理想形ですよ。

 自分をこういうふうに見せたいとか、こうやったらウケるんじゃないかとか、こうやったら話題になるんじゃないかとか思いがちだけれど、ひたむきにやっているだけなのに、これだけお客さんがいる。すごいじゃないですか。

師匠、柳家小三治さんの似顔絵を描く柳家三三さん=東京都杉並区で、小磯晴香さん撮影

 勉強に来ていた二つ目さん(真打ち昇進前の若手落語家)が言っていました。「意味分かんないですよ」って。もちろん、いい意味でですが。「どうしたの?」と聞くと、「だって笑点メンバーでもないんですよ。落語だけで独演会に毎回これだけのお客さんが集まるのは、僕らからしたら意味分かんないぐらいスゴイですよ」と言うんです。本当にそう思います。

 演芸はシンプルだから難しい。それを写真にするのは本当に難しいですよ。所作だけなら映像の方が強い。でも、そうではなくて、この人のここはオレにはこう見える、というところで撮る。所作が映っていなくても、その人が伝わる時があるんです。

 野球ならホームランを打つ写真を狙うけれど、そうではなくて、その選手がそこに至るまでの、あるシーンを切り取った方が、その人らしさが出ると思う。ピュリツァー賞を取った「ベーブ・ルースの引退」の写真なんて、後ろ姿でただ立っているだけの写真ですよね。その方がホームランを打っている写真よりも伝わる。落語がお客さんの想像力に訴えかける表現なのだから、演芸写真家も撮った写真がお客さんの想像力を刺激するようなものでないと、意味がないじゃないですか。

 --最後に、この状況で、ご自身の力、モチベーションになっているものをお聞かせください。

橘蓮二さん(左)と柳家三三さん=東京都杉並区で、小磯晴香さん撮影

 橘 コロナでいいことなんて一つもなかったけれど、今まで当たり前だと思っていたことが、実は当たり前じゃないということがものすごく大事だと気付きました。「今、こんなにすてきな芸人さんをこう見ました。だから見てください」というスタンスは変わらないけれど、当たり前だと思っていたことが当たり前じゃないと気づいた橘の写真は、もっと気持ちが入ると思うんです。気持ちが入ったものを、なんとか残していきたい。人生の残り時間も少なくなってきたから、その写真で少しでも役に立てれば。演芸に出合って救われたから、こうやってできるわけですから、「これからは恩返し」というのは変わりません。

 三三 (僕の落語を)見た人が「楽しかった」「ああ、そうなのか」「それはよかった」ということですよね。自分の噺(はなし)がいいとか悪いとかとは別次元じゃないですか。お客さんが楽しんでくれれば、それでいい。自分のやっていることで、世の中が変わることはないんで。

 結果に対しては別に欲を持たないので、「楽しませたい」とか「感動させたい」とか、「世の中に楽しみを与えたい」とか、そういうことは全然ないので、「自分がしゃべりたい」という欲があることだけが、モチベーションなんじゃないでしょうか。

柳家三三 やなぎや・さんざ

 1974年生まれ。93年、柳家小三治に入門。2006年真打ち昇進。文化庁芸術祭新人賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞などを受賞。「ビッグコミックオリジナル」で連載された尾瀬あきら「どうらく息子」では落語監修を担当した。毎月、落語会「月例 三三独演」を開催しているが、新型コロナウイルスのため、8月は20日に有料ライブ配信の予定。

橘蓮二 たちばな・れんじ

 1961年生まれ。95年から演芸写真家として活動し、2015年から落語会の演出、プロデュースも手がける。今月、「喬太郎のいる場所 柳家喬太郎写真集」(CCCメディアハウス)を発売したばかり。他に「本日の高座 演芸写真家が見つめる現在と未来」(講談社)、「この芸人に会いたい 観て、撮って、書いた。旬の芸人・落語家たち」(河出書房新社)など。

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