視聴者の知る権利をないがしろにするもので、公共放送としてあるまじき対応だ。
かんぽ生命保険の不正販売を報じた番組を巡り、NHKの経営委員会が当時の上田良一会長を厳重注意した問題で、経営委が議事録の情報公開請求に応じた。だが、内容は公表済みの文書を切り貼りしただけだった。
NHKが設置している情報公開・個人情報保護審議委員会は全面開示すべきだと答申していたが、それを無視したに等しい。
そもそも放送法が禁じる経営委による番組への介入にあたるのではないかと指摘されている。これでは不信感は増すばかりだ。
上田氏への厳重注意は、毎日新聞の報道で発覚した。日本郵政グループからの抗議に、当時の石原進委員長と、委員長代行だった森下俊三現委員長らが同調し、ガバナンス不足などを理由に注意していた。
これに先立ち、番組の続編制作のために情報提供を呼びかけるネット動画2本が削除され、続編が延期された。
実際には、経営委は上田氏が出席している場で、作り方に問題があったなどと番組を批判していた。また、森下氏は「本当は、郵政側が納得していないのは取材内容だ」とも発言していたことが取材で分かっている。
郵政側の狙いは番組への圧力だったとみられる。NHKの最高意思決定機関である経営委が、それに加担したと思われても仕方がないだろう。
経営委もNHK執行部も、放送の自主自律が損なわれることはなかったと主張している。そうであれば、議事録を全面開示しても何ら差し支えはないはずだ。
受信料で成り立つ公共放送は、視聴者の信頼が欠かせない。2001年に創設されたNHKの情報公開制度は、視聴者への説明責任を果たし、業務の透明性を高めることが目的だ。
その精神を踏みにじるような今回の経営委の判断だ。森下氏の委員長としての資質を疑わざるをえない。
経営委は全面開示しない理由を十分に説明していない。積極的な開示こそが、視聴者の信頼を取り戻す道だ。