「ワーケーションなどの普及に取り組んでいく」。菅義偉官房長官が7月27日にこう発言すると、インターネット上では「また政府の造語か」「休み中に仕事をさせるのか」「労働強化だ」「コロナ感染拡大の今言うことなのか」と批判があふれた。だが、本来のワーケーションとは、仕事と休暇を組み合わせた新しいライフスタイルのことだ。コロナ前から子連れでワーケーションの体験ルポを書き、多様な働き方を実践しようとしてきた記者(今村)は、突然の発表に「なぜ今なの?」と驚いた。ワーケーション推進派の仲間たちも「(菅長官の)発言で誤解が広がっている」と苦笑いしている。ちょっと待って。正しいワーケーションの姿、知ってもらえませんか?【今村茜/統合デジタル取材センター】
以前からワーケーションを実践していたジャーナリストの津田大介さん(46)は、「実は、国内観光業を助けるためにもホテルに車で直行直帰してワーケーションをしようかと考えていたんですが、感染の拡大も含めて悩ましい状況ですね」。降ってわいた非難の嵐に面食らった様子だ。
新しい働き方ゆえ、まだ認知度は低く実践者も少ない。それが官房長官の突然の発言で急に注目された。推進側には歓迎の一方、戸惑いの声もある。
大手企業のワーケーション推進担当者は「どんな形であれ話題になるのはいいこと」としたうえで、「一時的な観光業救済に使われるのはちょっと違う」と指摘する。「労働力を全国に分散し、ずっと一つの場所で働いた結果、息が詰まってしまうことを防ぎ、長い目で見て働くことと生きていくことを両立しようという前向きなもの。多様な働き方の一つで、観光だけじゃない」と強調する。
菅長官の発言は、Go Toトラベルで物議をかもした後だったことから、観光業界救済と受け止められがちだ。この担当者は「(効能を調査したりと)ここまで積み上げてきたのに、2歩くらい後ろに下げられたかな。(批判され)ネガティブなイメージができてしまったのは残念」と悔しがる。
今秋の事業開始に向けて2年かけてワーケーションの受け入れプランを作成してきた和歌山県の民間団体「TETAU(テタウ)」理事の森脇碌(ろく)さん(38)は、「唐突すぎる」と苦笑する。
「ワーケーションは地域に長期滞在し現地の人と交流することで学びを得るもの。親子ワーケーションなら子どもを預かる、農業体験なら農家を手配するなど準備に手間がかかり、行って遊ぶだけの観光とは違うんです。今はまだ、全国の企業や自治体で受け入れられるのは数百から数千人レベル。試行錯誤を重ね、ようやく本格的に始動しよう、という時期。国規模で『ワーケーションしよう』といっても、どこに受け皿があるのか。ワーケーションを誤解したまま実行しても、『これって観光や視察旅行と何が違うの』と感じてしまうと思います。むちゃ言うなよ、って」
ネット上での批判に火がついたきっかけは、27日の政府の観光戦略実行推進会議で菅長官が行った以下の発言だ。
「今回は国内観光の新しい形について問題提起をいただきました。テレワークを活用して、リゾート地、また温泉地などで余暇を楽しみつつ仕事をするワーケーション、さらにはそうした地域に企業の拠点を設置するサテライトオフィスなどは、新しい旅行や働き方のスタイルとして政府としても普及に取り組んでいきたい」。ワーケーションの深い意義まで知っているのかと疑いたくなる。
さらに「そのため、ホテルなどで仕事ができるようにWi-Fiの整備をはじめ、支援をしていきます。さらに休暇の分散化、休暇の取得促進をはじめとする環境整備も必要だと思っています」と続ける。支援策がWi-Fi整備とは、違和感がぬぐえない。
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2006年毎日新聞社入社。経済部や統合デジタル取材センターでビジネスや働き方の取材を進める。自ら子連れでワーケーションを体験したルポ記事の執筆を機に、リモートワークやワーケーションなど新しい働き方を模索する新規事業「Next Style Lab」を社内で発足。2020年4月からは記者を兼務しながら「毎日みらい創造ラボ」で事業展開。Google News Initiative Newsroom Leadership Program 2019-2020 フェロー。3児の母。
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