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#最後の1年 早稲田大ラグビー部

早大ラグビー部 伝説と現役の「5年生」 2度目の最後、立ちはだかるコロナ

部内マッチに出場する大平純造(中央奥)=2020年1月1日(早大ラグビー部提供)

 全国大学選手権連覇を目指す早稲田大ラグビー部にただ一人、「大学5年生」の部員がいる。フッカーの大平(おおだいら)純造(22)。4年間を控えで過ごし、レギュラーの座をつかむため大学に残ることを決意した。新型コロナウイルスの感染拡大でシーズンを迎えられるか不透明だが、伝統のジャージーを着てグラウンドを駆ける自らを夢見て努力を続けている。

 「5、6、7……」。タイムを読み上げる声と笛の音にせかされながら、横一列に並んでグラウンドを延々と往復する。「折り返す時はラインをしっかり越えて止まれ。だから上に上がれないんだ!」。一切のごまかしを逃さないコーチから厳しい声が飛ぶ。

 汗を飛ばして黙々と走るのが、身長174センチ、体重94キロ、優しい顔をした大平だ。新型コロナの影響による活動休止を経て6月中旬、チームは段階的に再始動した。大平はまだレギュラーの練習に加われず、入部したばかりの1年生や控えメンバーたちと共に鍛錬を続ける日々だ。

 「♪荒ぶる吹雪の逆巻くなかに……」。1月、早大ラグビー部は11季ぶりに大学選手権を制した。王者になった時にだけ口にできる部歌「荒ぶる」を真新しい国立競技場のグラウンドに響かせていた時、巨大な輪に加わりながらも耐えがたい悔しさをかみしめていた。自身の年代が日本一に輝いた喜びよりも、一度も1軍のレギュラーになることなく4年間が幕を閉じたむなしさに襲われた。「これで終わっていいのか」。そんな思いが去来していた。

 神奈川県鎌倉市出身。ラグビー好きの両親の影響で、幼稚園の年長の時からラグビースクールに通い始めた。物心ついた頃、早大の赤黒ジャージーが大学ラグビー界を席巻する姿をテレビが映し出していた。2006年2月の日本選手権2回戦で、佐々木隆道氏(36)=キヤノンFWコーチ=が主将として率いる早大がトップリーグのトヨタ自動車を撃破する大番狂わせを演じて4強入りした。「いつか自分も赤黒ジャージーを着たい」。憧れは確かな目標となり、早稲田実高(東京)を経て早大に進んだ。小中学生時代はスピードとパスワークで勝負するバックスだったが、体重が増えるにつれて背番号は小さくなり、高校からはタックルを使命とするフランカー、大学1年の夏にはスクラム最前列のプロップに転向した。

 だが大学では試練が続いた。1、2年時、実力は部内で一番下。5軍の試合にすら、2年間で通算40分間程度しか出場できなかった。規律も厳しく、退部を3回、迫られた。1度目は腰を痛めて別メニュー調整中に引っ越しのアルバイトをしたことが発覚した時。2度目は練習でプレーの決まり事を間違えた時。3度目は試合でスパイクを忘れた時。50日間、グラウンドに入れてもらえなかったこともあった。

 膨らみすぎた部員数を絞り込もうとされていた時期でもあり、退部勧告を受けた選手は少なくなかった。でも「気付いたらコーチに謝り、グラウンドに戻っていた」。3度もの危機を乗り越えて部に残った選手は他にいなかった。執念が実り、3年時には一度きりだったが1軍の試合に途中出場した。着実に力はつき、4年生になった昨季、実力者上位60人程度しか入ることを許されない上井草のラグビー部寮(東京都杉並区)に移った。

 「今年1年、ラグビーを最優先にしよう」。就職活動をせずにラグビーに没頭した。サラリーマンとして働く自身をイメージできなかったこともあるが、赤黒ジャージーに袖を通すには、同期が就職活動に励む春先に練習に打ち込まなければならないと考えた。事実上、この時点で4年間での卒業は諦めていた。

 そんな昨年5月の試合前日、練習の最後のメニューで右足の甲を負傷し、2カ月半、戦列からの離脱を余儀なくされた。故障が響き、結局、「最後の1年」も赤黒ジャージーと無縁で終えた。日本一を成し遂げ、サントリーに進んだSH斎藤直人(22)ら、同期メンバーがまぶしく輝くほどに自らがふがいなく、くすんで見えた。

 大学スポーツの選手資格は競技団体ごとの判断に委ねられている。ラグビーは年齢や在学年数について明文化された規則はなく、5年以上プレーを続ける選手は珍しくない。管轄する関東ラグビー協会の取り決めでも、大学に在籍している限り5年生でも6年生でも公式戦に出場できる。

 「荒ぶる」の輪の中で「もう1年、やってやる」との思いがこみ上げた大平だが、数日たつと、「本当に自分なんかが、もう1年やっていいのか」との不安が頭をもたげた。厳しい練習と引き換えにレギュラーの座にたどり着ける確証もない。冷静になると、一歩を踏み出せなくなった。

 「荒ぶる」から9日後だった。くすぶる気持ちを抱えたまま…

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黒川優

毎日新聞東京本社運動部。1990年、埼玉県生まれ。2014年入社。松山支局、神戸支局を経て19年5月から現職。サッカー、ラグビーなどを担当し、現在は主に大相撲を取材。本気で大銀杏を結おうとして、19年夏ごろから半年ほど髪を伸ばし続けていたが、思った以上に周囲からの評判が悪く、やむなく「断髪」した。

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