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余録

江戸時代の相撲では「大関」だった力士が…

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 江戸時代の相撲では「大関」だった力士が次の場所で幕下に格下げされたことがあった。「大関」といっても、ろくに相撲を取れないのに立派な体格だけで客寄せのために番付にのせた「看板大関」のことだ▲この大関、取組は全休か、1~2番取るだけ。1場所限りの「看板」だが、相撲の才のある者には後の場所で相応の地位を与えられることもあった。なかには「仕込めばものになる」と幕下の二段目で“採用”された力士もいたのだ▲大関を経験した力士が幕下まで降格したのは、この「看板大関」以来、つまり実質は相撲史上初のことだったという。だが、それでも「こうまでけがをした人がいなかっただけ」との親方の言葉で引退を思いとどまった元大関だった▲けがや内臓疾患により、その後一度は序二段まで落ちた元大関の照ノ富士(てるのふじ)だが、東前頭17枚目の幕尻に復帰した7月場所での5年ぶり2度目の優勝である。「笑える日が来ると信じてやってきた」と振り返る史上最大の復活劇だった▲コロナ禍に気持ちの浮かぬ今、人々が心ひそかに期し、また祈りと共に語られる「V字回復」という言葉だ。待ちに待った観客を半年ぶりに迎えた今場所、5年間の試練に耐えた元大関がファンの心に刻みつけた「V」の文字だった▲土俵の神様もこの大相撲のピンチに、なかなか味わいの深いドラマを見せてくれるものである。当の照ノ富士はまだ28歳。実力と風格、そして時代の求める復活力を兼ね備えた「看板力士」の帰還である。

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