韓国の裁判所が、元徴用工の訴訟で差し押さえられた日本製鉄の資産の売却へ向けた手続きを進めている。きのう、関係書類を同社に伝達するための法的手続きが完了した。
韓国最高裁による元徴用工勝訴の判決を受けたものだ。
今後の手続きには少なくとも数カ月かかりそうだが、実際に売却されれば日韓両国の対立は決定的となる。
日本政府は売却への対抗措置を取らざるをえない。自国民の財産を保護しなければならないからだ。それは、韓国政府も当初から認識していたはずである。
そもそも1965年の日韓請求権協定は財産・請求権問題の「解決」を明記していた。韓国政府もこれまで、元徴用工の問題は協定で解決済みという立場だった。最高裁判決は、この解釈を一方的に変更したものだ。
韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領は、「三権分立」を理由に司法判断には介入できないと主張する。
だが三権分立は国内での統治の仕組みである。そのまま国際法に当てはめるには無理がある。
どの国でも外交は行政府の担当だ。条約は、行政府が交渉をまとめ、立法府の承認で発効する。そこに司法の介在する余地はない。
裁判が起こされて司法が事後的な判断を行い、条約と合致しない判決を下すこともあるだろう。
だが、条約上の義務を履行しないことを正当化する根拠として国内法を持ち出すことはできない。それが、条約に関する国際法の原則である。解決の道は、政府が国内で対応策を講じることでしか見えてこない。
条約締結から半世紀後の司法判断で適用範囲を一方的に変更できるなら、安定した国家間の関係を築くことは難しい。
ただし、日本側の高圧的な姿勢は逆効果しか生まないだろう。報復措置をちらつかせて韓国側を動かせるのであれば、事態はとうに収拾されているはずだ。
対立が経済や安全保障の分野にまで飛び火した現状は、日韓どちらの国益も損ねている。
日本が韓国側に前向きな対応を強く求めるのは当然だが、同時に静かな環境を作るために協力する姿勢を大切にしたい。