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余録

「単に名聞ぐらいでは…

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 「単に名聞(みょうもん)ぐらいでは、一寸(ちょっと)出来ない芸である」。幕末から明治にかけて落語界をけん引した三遊亭円朝を、劇評家の岡鬼太郎(おにたろう)はこう評している。明治期に東京を襲ったコレラで興行はすべて休業に。円朝は家中の衣類を質に入れ、困窮しているほかの落語家を援助した。「大師匠の情に一同感泣した」▲いまのコロナ禍に響くエピソードだ。岡は芸についても記している。「一度心を捉へられた聴客(ききて)は、泣くも怒るも笑ふも喜ぶも、皆円朝の舌三寸の為(す)るが儘(まま)であつた」▲円朝が創作自演した「牡丹燈籠(ぼたんどうろう)」や「真景累ケ淵(しんけいかさねがふち)」といった長編の怪談噺(ばなし)は歌舞伎や講談にもなり、いまでも夏の風物詩だ。亡くなった桂歌丸さんもこの時期に語るのをライフワークにしていた▲円朝は幽霊画の収集でも知られる。墓所である東京・谷中の全生庵では毎年8月の1カ月間、コレクションが展示される。憂いや怨念(おんねん)、さまざまな表情の幽霊が並ぶさまは、それだけで外の暑さを忘れさせてくれる▲その円朝に大きな影響を与えたのが全生庵を建立した山岡鉄舟。舌ではなく心で語らなければ噺は死ぬと説いた。やがて円朝は「無舌(むぜつ)の悟り」を開き、京都・天竜寺の滴水禅師から「無舌居士」の号を得た。墓石にも刻まれる▲あす11日は円朝忌。今年は没後120年となる。舌先ばかりで、舌の根の乾かぬうちに政策がコロコロ変わる昨今の風潮だ。振り回される国民はたまったものではない。それこそ無舌の境地で、心で語る政治は期待できないものか。

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