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拝啓 戦争の時代から

<1>「母さん」慕う褐色のハガキ 特攻隊員の思いとは 消えゆく記憶を追う

青山はなさんの遺影の隣で、海軍兵士から青山食堂に宛てた手紙を見つめる孫の広さん。「亡くなった人は無念だったでしょうね」=愛知県豊橋市で2020年8月8日、兵藤公治撮影

 太平洋戦争中、愛知県豊橋市の海軍航空隊近くに一軒の食堂があった。戦時にこの食堂に届けられた大量の軍事郵便がある。軍の検閲印があり、褐色になったハガキには「母さん」と呼びかける言葉が並んでいた。宛先は「青山食堂」。差出人は飛行訓練などを受けた海軍兵士たちだ。

 便りは国内外の配属地から届けられた。一度は散逸したものの、古物商を経由して数カ所から「軍事郵便保存会」(兵庫県明石市)が昨年入手した。豊橋で過ごした日々を振り返るハガキを1枚ずつ読むと、青山はなさんが食堂を切り盛りし、10代の娘たちが手伝う様子が目に浮かんでくる。

 「母さんには本当に御世話様に成りました」「本当の母に接する如(ごと)く一日を過ごしたものでした」とはなさんを慕っていた。「笑(えみ)ちゃん」「哲ちゃん」「峰ちゃん」。はなさんの娘たちを妹のように呼んで思い出をつづったり、病にふせったことを知って心配したり。文通した形跡もあった。

 記者は保存会から借り受けた約350通のハガキを手に食堂の関係者を捜した。「これほどの手紙があったとは」。豊橋市に暮らすはなさんの孫、広さん(67)は目を見張った。

 はなさんは1906年生まれ。30歳のときに4歳上の夫が病死し、食堂と旅館を営んで4人の娘を育てた。手紙に「笑ちゃん」と登場する笑子さんは、はなさんの長女で終戦当時17歳だった。広さんの母親だ。

 郷土史「大崎島」(77年発行)などによると、豊橋海軍航空隊は43年に開隊。遠浅の海を5年あまりかけて埋め立て、海上に八角形の飛行場を作った。地元では兵士を下宿させた家が少なくなく、海軍相手の飲食店もあった。青山食堂はその一つだ。

 海軍指定となった店では戦地に赴く兵士の宴会も開いた。はなさんは絹が手に入りにくい時代に、飛行服に合わせるマフラーを餞別(せんべつ)に贈った。「此(こ)の度は結構なるマフラーお送りくだされ有り難くお礼申し上げます」と感謝するハガキもある。

 戦後も青山家と兵士たちとの縁は切れなかった。笑子さんは復員した元海軍兵士の周蔵さんと結婚。はなさんの勧めで、旅館の建物で戦争孤児を預かる施設を始めた。広さんもその一室で暮らした。

 両親は忙しかったが寂しくはなかった。「一緒に海で泳いで、釣りをした。みんな兄弟みたいでしたね」。周蔵さんは名前や戸籍が分からない孤児の名付け親になった。食料が乏しく、農作業を手伝って農家から野菜をもらい、近くの海でアサリを取った。

 逃げ出した子がいれば、母代わりの笑子さんは暗くなるまで捜した。周蔵さんが叱った後は優しく声をかけた。食堂を続けたはなさんも施設の子どもたちを気にかけた。卒業生はアサリのみそ汁など食堂の味を懐かしんで訪ねてきた。

 児童養護施設となり、1000人以上が巣立った。現在は退いているものの、母の後を継いで施設長も務めた広さんは卒業する子どもたちを送り出す複雑な気持ちを身をもって知った。だが、祖母がかつて見送った中には帰ってこなかった人もいた。

 ともに80代で亡くなったはなさんと笑子さんは生前、戦争について語っていた。「特攻に行く前日に宴会をするのを何回か見たそうです。10代の人もいて、若い人を見送るのはつらかったと言っていた」。広さんはつぶやいた。「祖母が何人くらい見送ったのか分かりませんが、たくさんの方が戦死したんでしょうね」

 食堂に出された軍事郵便の中で、ある特攻隊員が残したハガキが目に留まった。肉筆からは優しく、生き生きとした様子が伝わる。その印象と、終戦の約3カ月前に戦死した事実との隔たりが引っかかった。どんな思いで便りを出したのだろうか。特攻隊員とゆかりのある人たちを捜した。

 食堂に送られた軍事郵便の中には、海軍の特攻隊員として出撃したまま帰らぬ人となった俵(たわら)一さんが書いた2枚のハガキがあった。記者がその思いを知りたいと思った人だ…

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