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コロナの時代 科学と政治のあり方 国民に信頼される発信を

 危機管理における科学と政治の関係はどうあるべきなのか。

 2009年の新型インフルエンザの流行でも、11年の福島の原発過酷事故でも議論された重要な課題である。

 しかし、その経験が今回の新型コロナウイルス対策に生かされているとは言いがたい。

 初期の感染制御に中心的役割を果たした旧専門家会議でも、政治との距離や情報発信のあり方が問われた。その反省も踏まえ、感染第2波に備えて設置された専門家の助言組織が「新型コロナ感染症対策分科会」だ。

 ところが、分科会の助言に基づく政策決定の過程は、以前より見えにくくなった印象がある。

 専門知を生かしつつ政治が総合的に政策判断する。それを国民が納得して受け入れるには、信頼感が欠かせない。そのために今、求められているのは、政治の側の発信力を高めることだろう。

専門家の軽視に懸念も

 旧専門家会議は2月中旬に発足して以来、5月末までに計10本の「見解」と「状況分析・提言」をまとめ、公表した。

 「3密回避」や「クラスター対策」「人との接触8割削減」といった感染制御の戦略も打ち出し、国民に語りかけるリスクコミュニケーションも積極的に行った。

 結果的に感染第1波の拡大抑制に一定の役割を果たしたが、あたかも専門家会議が政策決定しているかのような誤解も生まれた。

 この状況を専門家は自ら「前のめり」と分析したが、新しいウイルスの感染拡大を抑制するには、避けられなかったことだろう。

 むしろ、専門家の危機感に政治や行政が迅速に反応しなかったことが、前のめり姿勢を招いたともいえる。

 新たに設けられた分科会には、感染防止と社会経済活動の両立をめざし、経済の専門家や自治体の長も加えられた。

 その上で、社会経済活動の制限緩和やGo Toトラベル、お盆の帰省の留意点などについて提言してきた。記者会見では尾身茂会長が専門家の役割はあくまで政府への助言であることを強調している場面が見受けられる。

 しかし、その一方で、専門家の間でどのような議論があり、政治が何に基づいて政策判断しているのか、国民に向けた詳細な説明は不足している。

 さらに、Go Toトラベルの前倒しや東京除外のように、分科会に諮る以前に方針が決まっているように見えるケースまで散見される。

 これでは、政治が経済重視の視点で都合よく決めているとの不信感が生まれる。新興感染症のような未知のリスクに対処するには、まず専門家の意見を聞く慎重さが必要だ。

最終責任の所在明確に

 海外でも、新型コロナをめぐる科学と政治の関係は困難に直面している。典型例は米国やブラジルだろう。どちらも、大統領が科学者の助言を軽視し、科学的根拠のない言葉や対策を重ねてきた。感染防止策をめぐり国民の対立を招くといった悪影響も出ている。

 科学的助言組織と政治の関係では「優等生」と考えられてきた英国も苦戦している。

 原発事故や感染症流行のような緊急時には「SAGE(緊急時科学助言グループ)」が招集され、政府に助言してきた。しかし、今回は、メンバーが当初非公開だったことなど「透明性と公開性」「独立性」の原則に疑問が呈され、批判を浴びる事態となっている。

 新興感染症の危機管理では、日々、状況が進展する中で、専門家と政治家が密接に意見交換しながら連携して対策を進めることが必要な場面は多いだろう。

 ただ、その際にも、科学的助言の中立性は重要で、科学的判断と政治的判断の間に一定の線引きは必要だ。最終的には政治が政策決定に責任を負っていることは明確にしておかねばならない。

 そのためには、政治の側から国民へ透明性のある丁寧なコミュニケーションが欠かせない。外出禁止など強制的な措置をとる海外と違い、法的強制力が弱い日本では国民の理解と協力抜きに対策に実効性を持たせられない。

 国民の信頼を得る方策として個人情報に留意した上で分科会を公開で開くことも検討してもらいたい。国民の側にも科学には不確実性があり、簡単に正解がわからないことへの理解が求められる。

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