「女・男の気持ち」(2020年8月6~12日、東京・大阪・西部3本社版計19本)から選んだ「今週の気持ち」は、東京本社版8月12日掲載の投稿です。
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<今週の気持ち>
さおばかり 北海道新十津川町・澤田孝江さん(主婦・78歳)
中学生のとき、友からアルバイトに誘われた。野菜や果物、魚類などを扱う商店で、多忙なお盆の1日だけのアルバイトである。
午後、小学2年生くらいの少女が来て「塩2キロください」と風呂敷を差し出した。だが、塩が見つからない。従業員は忙しそうだったが、思い切って1人のおばさんに聞くと「そこの紙袋の中だよ」。袋にはシャベルが入っていた。ここから2キロの塩を取り出すのだ。「台ばかりはどこ?」。私の2度目の問いに、おばさんは面倒そうに「さおばかりにかければ」と答えた。
困った。使い方がわからない。皿にシャベルで2杯乗せ分銅を動かしひもを持ち上げると、さおは左右に揺れ、やがてピタリと止まった。だが自信がない。「これでいいことにしちゃえ」。新聞紙と風呂敷に包み、少女に手渡した。
次の仕事に取りかかっていると少女が再び現れた。「お姉ちゃん、お母さんが2キロの塩ってこんなもんじゃないって」。全身の力が抜けた。状況を察した男の子が代わりに量ってくれた。私は「ごめんね」と少女に謝り、どっしりとした塩を手渡した。
夕方、店長からアルバイト代が手渡され、中には予想以上の額が入っていた。大失敗に胸が痛んだが、私の手は封筒をちゃんと受け取っていた。お盆が近づくと思い出す苦い経験である。さおばかりは今も使えず、アルバイトは以後、やったことがない。
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<担当記者より>
「さおばかりなんて今は、博物館にしかないでしょう?」。投稿してくださった澤田さんはそう振り返ります。確かに担当記者も、使い方がわかりません。「あれからもう恐ろしくて……本当にアルバイトができなかったんです」。町に1軒しかなかった繁盛店でのアルバイト体験は、苦い記憶となってしまいました。
ところで、澤田さんの住む町ではお盆前には塩がよく売れたのだとか。なぜ必要だったのでしょう。「夏野菜がよく取れるところで、特に親戚が集まるお盆前にはキュウリの塩漬けを作る家が多かったんです」。たくさん漬けたキュウリを、お盆にみんなでポリポリ食べる。これも忘れられないお盆の風景なのだそうです。
ちなみにキュウリが余ったら何日もかけて塩抜きして、かす漬けやみそ漬けにするのが定番。夏の恵みを味わい尽くす知恵ですね。
ほとんどの地域でお盆を迎えました。お休み中の方も多いでしょう。いつもと違うお盆、いかがお過ごしでしょうか。みなさんからのコメントもお待ちしています。コメントはこちらからどうぞ。