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シリーズ・疫病と人間

増幅された格差。「第三の敗戦」になるか 寄稿 社会学者・上野千鶴子氏

ビニールのカーテンの中でレジ打ちをするスーパーの店員ら=東京都練馬区で4月24日、大西岳彦撮影

 新型コロナウイルスとの戦いは「戦争」なのか。この国難は、日本人の国民性をあらわにし、弱者を一層痛めつけているのではないか。社会学者の上野千鶴子氏が考察する。

 今年もまた、敗戦の日が巡ってきた。今年はとくべつの年、未曽有のコロナ禍のもとの敗戦記念日となった。

 戦争中でも疫病と自然災害は容赦してくれない。第一次大戦のときに兵士のあいだに流行したスペイン風邪と呼ばれるインフルエンザは、世界中で2000万人の生命を奪った。日本でも戦争中に鳥取地震、昭和東南海地震、三河地震と3回にわたる大地震にくわえ、周防灘台風などたびかさなる台風と水害が襲った。天気予報は軍事機密だったので警報は発されず、戦意高揚に響くと厳重な報道管制のもと、被災の実態も国民に知らされなかった。戦時下で支援は届かず、被災者は孤立した。

 現状を「コロナとの戦争」と呼ぶ人たちがいる。ウイルスという「見えない敵」との戦いだ。外出自粛を要請する緊急事態の発令は、まるで戒厳令のようだし、人気(ひとけ)の消えた繁華街は灯火管制のもとにある戒厳令下の夜のようだ。緊急事態を宣言できる法的根拠となる新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正が成立したあとも、自民党憲法草案9章にある「緊急事態」を憲法に書き込むべきだ、そのために憲法改正が必要だと主張する声も聞かれた。外国の報道を見れば、パリの街角には警察官が立ち、外出者を摘発する姿があった。オーストラリアでは許可証なく州境を越した移動には、高額の罰金が科された。

 それらにくらべると、日本の緊急事態には罰則がない。代わりに自粛要請があり、休業補償金がある。公共の利益のために私権を制限してもよいというのが緊急事態だから、補償金を支払う法的根拠はないという憲法学者もいる。戦争中には、徴発にも徴用にも、それによる戦傷病死にも財産の損害にも、かたちばかりの代償のほかはなんの補償もなかった。軍票と戦時国債は、敗戦後に紙切れになった。だが今日では、私権を制限されること…

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