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天を仰いだ吉村知事の“演出” うがい薬、大阪モデル…科学を都合よく利用?

大阪府の専門家会議で発言する吉村洋文知事=大阪府庁で2020年6月12日、木葉健二撮影

 初期段階の研究に過ぎないのに、新型コロナウイルス対策の「切り札」としてうがい薬の使用を呼びかけ、混乱を招いた大阪府の吉村洋文知事の記者会見から2週間あまり。この間、府内の重症者は東京都を超すほど増えたが、感染状況を示す府の独自基準「大阪モデル」は赤信号にならない。科学が政策判断に都合よく使われているのではないか――。会見や会議での知事の言動を検証すると、「うがい薬会見」以外にも「演出」を意識した発信があった。【田畠広景】

 机上には、ポビドンヨードを含むうがい薬が9点も並んだ。吉村知事の4日の会見は、「研究段階」「確定的にいえない」と予防線を張る一方で「うがい薬を使ってうがいすることでコロナがある意味減っていく」と断定調を交えた発信だった。

 一方で、研究責任者で会見に同席した大阪はびきの医療センターの松山晃文医師も「うがいという日本文化が世界を変えていくのであればハッピーだ」と発言した。ただ、うがいの効果を確かめる質問には「唾液中のウイルスが減れば人にうつしにくくなる可能性はあるが、これは数十例、数百例の研究では無理なので、今後の課題」と慎重なトーンに転じた。

 東京大大学院の藤垣裕子教授(科学技術社会論)は「研究者は研究の限界を知っているが、発表すると公衆からオーバーアクションが起きる。うがい薬の研究は対象数も約40人と少なく、発表する段階ではなかった」と指摘。「研究者は、研究から言える限界やメリット・デメリットを明確に伝えないといけない」と述べた。

 吉村知事は4日の会見冒頭で「うがい薬使用群と普通のうがい群で比べた研究」と誤った紹介をしていた。質問を重ね、誤りが分かったが、知事の研究への理解が不足していたのは明らかだった。実際は、うがい薬使用群と何もしなかった群の比較だった。

 発表の経緯も唐突だった。7月末に大阪市役所の応接室で松山医師が結果を吉村知事と松井一郎市長に報告すると、松井市長が、既に予定されていた8月4日の合同会見での発表を提案したという。府庁内で研究への科学的な検証がされたか健康医療総務課に尋ねると、「結果に基づいて政策を考えており、研究の詳細の検証はしていない」との回答があった。

 吉村知事は翌5日の定例会見で「府民への呼びかけは政治家の仕事。正確に丁寧に伝えるのはメディアがすべきだ」との認識を示した。その上で「紙を読む会見をしても意味ないし、僕自身は思うことは、全て発信していきたい」と強調した。可能性レベルの研究を政治家が強い言葉で発したことで混乱が生じ、結果的にその責任を誰も取っていない状況になっている。

 大阪府には、うがい薬の研究発表のほかにも、新型コロナ対策として科学的知見を積極的に取り入れた先例があった。

 緊急事態宣言が5月下旬で全国的に解除され、第1波対策を振り返って次の波に備える6月12日の府の専門家会議の一場面。「緊急事態宣言も営業の自粛も全く効果はなかったということですか?」と吉村知事が専門家に問いかける。専門家は短く「なかったと思います」と言い切った。天を仰ぎ腕を組んで沈黙する知事――。映像はテレビで繰り返し放送された。視聴者には、会議の場での丁々発止の議論の末に、これまでの政策を否定されたように見えたかもしれない。

 この専門家は大阪大の中野貴志教授(物理学)。感染収束のスピードを、直近1週間の感染者数を累計の感染者数で割った数字で予測する「K値」の考案者で、この理論を基に、第1波の時の営業自粛の効果が「なかった」と断言した。

 会議後の知事は、「自粛の効果なし」との指摘に、ショックを受けた様子はうかがわせず、む…

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