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余録

予言は昔から演劇の重要なモチーフである…

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 予言は昔から演劇の重要なモチーフである。アポロンの予言に翻弄(ほんろう)されたオイディプス王の救済を描く詩劇「オイディプス昇天」を書いた劇作家・山崎正和(やまざき・まさかず)さんの場合は、自らが来たるべき時代の予言者となる▲若くして戯曲「世阿弥(ぜあみ)」で岸田国士(きしだ・くにお)戯曲賞を受賞した山崎さんが、1983年に「中央公論」に掲載したのは「新しい個人主義の予兆」という評論だった。後に「柔らかい個人主義」というこの論文の用語は時代のキーワードとなる▲みなが一丸となって高度成長の坂を駆け上がった時代が終わった頃だ。人々の企業や国家、家庭への帰属意識は薄れ、消費社会を背景に人と人のさまざまなふれ合いをベースにした新しい「個人」が生まれつつあると説いたのである▲それは一つの役割にしばりつけられた過去の産業社会の個人とは違う。人々の消費行動の多様化、新たな「趣味」の形成、それらの多彩なかかわりの中で自己表現する柔らかな個人だという。まさに脱産業社会の文化の予言であった▲山崎さんは阪神大震災で現れた市民ボランティアに、自らが予見した柔らかい個人主義の実現を見ることになる。だがその一方では、個人主義と対極的な、嫉妬(しっと)などの劣情に根ざすポピュリズム政治の風潮を批判することにもなる▲論議を呼んだ禁煙ファシズム批判も、個の抑圧への激しい闘志の表れなのだろう。予言は実現したのか、裏切られたのか。「成熟した個人主義」という未完のテーマを日本社会に残し、劇作家は旅立った。

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