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文芸時評

8月 私のおすすめ 小川公代(英文学者)

(1)河野真太郎編、川端康雄ほか訳『暗い世界――ウェールズ短編集』(堀之内出版)

(2)柴崎友香『百年と一日』(筑摩書房)

(3)馳星周『少年と犬』(文芸春秋)

 ウォルター・スコットのような長(ちょう)篇(へん)小説では歴史的変容のなかに位置付けられる個の葛藤は表現し得るが、短篇小説では難しいと言ったのはジェルジ・ルカーチだが、五感の鋭敏さが失われがちなコロナ禍で読みたくなるのは、短篇作品なのではないかと思う。歴史叙述の代わりに、個人の主観的な感覚印象が時間軸に縛られず伸びやかに表現される短篇集をご紹介したい。

 (1)は日本初のイギリス・ウェールズ文学の短篇集。貧困にあえぐ炭鉱町の少年たち、競歩レースを戦い抜く男たち、じん肺症でやむなく炭鉱での仕事を断念した男、ネイルサロンの経営がうまく行かず排外主義的になる女。たしかに「暗さ」が覆い尽くす世界だが、だからこそ登場人物の瑞々(みずみず)しい感性を媒介して切り取られたかけがえのない瞬間がいくつも浮かび上がる。「失われた釣り人」では大戦中なのに戦争とは不釣り…

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