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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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忙しい農作業シーズンを終えた晩秋…

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 忙しい農作業シーズンを終えた晩秋、農家の人たちが馬車に乗って大移動する。19世紀半ばの米国の風景だ。キリスト教徒には欠かせない日曜日の礼拝を済ませ、一行が向かう先は遠方の投票所。移動はまる1日がかりの長旅だった▲投票するなり帰路を急いだのは水曜日の市場に間に合わせるため。かなりの綱渡りだが、大統領選の期日が「11月の第1月曜日の翌日の火曜日」と国の法律で決められたゆえんである。農家や宗教行事に支障がないよう配慮したわけだ▲そんな牧歌的な光景が間もなく起きた南北戦争で一変する。戦場で戦う100万の兵士の投票権をどう確保するか。導入されたのが郵便投票だった。大統領選では戦地に大量の投票用紙が送られ、集票所が各地に建設されたという▲1世紀半を経てコロナとの戦いに苦戦する米国に持ち上がった郵便投票問題である。トランプ大統領は共和党全国大会で、民主党が「投票詐欺」を企てていると主張した。勝手な記入など投票用紙が不正利用されると疑っているようだ▲「共和党に不利」とも言う。普段は投票所に足を運ばない黒人らの票が増え、民主党に有利になるからだという。多くの有権者の声を吸い上げることができるなら、民主主義の理念にかなっている▲大統領選では有権者の7割超が郵便投票できるという。集配業務や開票作業で混乱が起きないとは限らないが、目的はコロナ対策だ。準備に万全を期すべき大統領がそれをないがしろにするなら、政略的に過ぎる。

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