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磯田道史・評 『信長徹底解読』=堀新、井上泰至・編

『信長徹底解読 ここまでわかった本当の姿』

 (文学通信・2970円)

 織田信長は有名すぎて、虚実ない交ぜの人物像になっている。若い時分に、異様な装束を着て、父・信秀の葬儀で奇矯な振る舞いをしたが、虚像を膨らませる文学では、敵を欺くための馬鹿のふりとされ、実像を追う史学では、合理的な兵法の一環で「かぶいた」派手好み、とされる。

 信長の実像から虚像への展開は、太田牛一の『信長公記』→小瀬甫庵『信長記』→遠山信春『総見記』と、フィクションの度を高めていく。『信長公記』の日記風記録から、だんだん『絵本太閤記』など娯楽性の強い仮名読み物に変化し、信長像に尾ひれがついた。さらに、歌舞伎の演目になり、司馬遼太郎の「国民的歴史文学」が脚色して、正室の帰蝶(濃姫)などを活躍させた。歌舞伎には「几帳」という信長の愛妾(あいしょう)が登場し、本能寺の変で奮戦する。司馬は江戸後期の『絵本太閤記』のままに、信長の正室・帰蝶を本能寺で戦わせ、討ち死にさせるシーンを書いた。司馬作品は史料の多い明治以後の日露戦争を描いた『坂の上の雲』などは史実に寄せてあるが、戦国時代を扱った作品は講談さながらの娯楽文学で、司馬作品で「歴史がわかる」などと思ってはいけない。司馬自身も歴史がわかる戦国物を書く意図はなかったろう。

 一方、歴史学は、同時代の一次史料や新史料で、信長の実像をアップデートし続けている。信長の父は晩年、信長の弟・信勝に領国支配権の「分与」をすすめていた形跡がある。熱田社(熱田神宮)の統治権すら弟に与えられていた。この状況を解消するために、信長は弟と抗争し、ついには殺害した。また信長の母は後妻らしい。信長の父は主君の尾張守護代・織田達勝(みちかつ)の娘婿となり、それをテコにのし上がり(『熱田加藤家史…

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