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社説

アベノミクスの終幕 重くのしかかる負の遺産

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 華々しく登場したが、大きな成果は残せず舞台を去る。安倍晋三首相の最大の目玉政策、アベノミクスは、実を結ばずに散る「あだ花」のように終わる。

 滑り出しは上々だった。2012年末の第2次安倍政権発足と同時に景気回復が始まり、1万円程度だった日経平均株価は5カ月で1万5000円台に急上昇した。

 デフレ脱却を掲げた首相は大胆な金融緩和と積極的な財政出動を打ち出して、株式市場の期待を高めた。ニューヨークで投資家に「バイ・マイ・アベノミクス(アベノミクスは買い)」と誇らしげに呼びかけたのもこのころだ。

 訪日観光客も急増した。政府によるビザの要件緩和に加え、日銀の異次元緩和で円安が進み、割安な旅行先と人気を集めた。「爆買い」は景気の追い風となった。

 だが勢いは続かなかった。成長率は年平均1%程度と低いまま、今から2年近く前に後退局面に入った。政府が触れ回った「戦後最長の景気回復」も幻に終わった。

巨額の借金で株高演出

 誤算の最大の要因は、賃金が伸び悩んだことだ。円安に伴い、大企業は輸出で潤った。だが国民には十分還元されず、景気の柱である消費は低調だった。

 格差問題も深刻化した。首相は雇用改善を強調したが、賃金が低い非正規労働者が大半だった。一方、株高の恩恵を受けたのは富裕層などに限られた。景気回復と言われても、多くの国民にとって実感が乏しかったのは当然だろう。

 それでも首相は「政権安定の生命線」と位置づけた株価対策に力を注いだ。借金である国債を増やしてでも、財政の大盤振る舞いを繰り返した。日銀も国債を買い支えた。株価は2万円台に乗せたが、景気の実態とかけ離れた「官製相場」にほかならなかった。

 金融緩和と財政出動だけでは景気を刺激しても一時的で終わるのが通例だ。民間主導の成長にバトンタッチできなければ、本格的な回復は望めない。アベノミクスも金融、財政に続く第三の矢として成長戦略の強化を目指した。

 首相は選挙のたびに成長戦略と称して「地方創生」「1億総活躍社会」「人生100年時代」などと耳目を引く看板を掲げた。

 本来なら、いずれも政権が全力を挙げて取り組むべき重要なテーマである。しかし、首相は看板を頻繁に取り換えた末、どれも中途半端に終わらせてしまった。

 成果が乏しいまま、財政・金融政策のアクセルを踏み続けた結果、残ったのは借金の山である。

 国と地方の借金残高は今年3月末で1100兆円を超え、政権発足時から200兆円近くも膨らんだ。20年度に財政を立て直す目標もあったが、首相は5年も延期した。膨大な「負の遺産」は将来世代に重い負担としてのしかかる。

 500兆円もの国債を持つ日銀の信用も揺らぎかねない。国債の金利が上昇すると、巨額の損失を抱えるからだ。円が急落するなど経済が混乱する恐れがある。

 首相は消費増税を2回実施した。とはいえ先送りを繰り返したうえ、手厚い景気対策も行い、逆に借金を増やした。景気への配慮は必要だが、国民に痛みを求める以上、無駄な歳出を削り、財政立て直しの道筋を示すべきだった。

展望なき政策の転換を

 安倍政権の根源的な問題は、高齢化や人口減少といった日本社会の大きな構造変化を踏まえた長期展望を欠いていたことだ。

 高齢化に伴い、社会保障費は増え続けている。しかも政府は、15年に1億2000万人台だった日本の人口が65年には8000万人台にまで減ると予測している。働き手が少なくなれば、1人あたりの負担はますます重くなる。

 ところが、首相は将来の厳しい姿に向き合おうとしなかった。政府の人口予測も直視せず、「50年後も1億人維持」というスローガンを掲げ続けた。

 高齢化と人口減少を乗り切る財政を構築するには、幅広い世代の負担増が避けて通れない。首相は問題を棚上げしたまま、政権の幕引きを図ろうとしている。

 日本経済は今、新型コロナウイルスの感染拡大で危機に直面している。安倍政権はコロナ対策として巨額の財政出動に踏み切り、借金はさらに積み上がった。

 国民生活を守る支出は惜しむべきではない。だからといって、将来のつけを増やすだけの無責任な膨張は許されない。次期政権は長期展望をきちんと示すべきだ。

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