特集
毎日新聞デジタルの「SUNDAY LIBRARY」ページです。「サンデー毎日」の書評「SUNDAY LIBRARY」の記事を掲載します。
- ポスト
- みんなのポストを見る
- シェア
- ブックマーク
- 保存
- メール
- リンク
- 印刷
孤独で孤高の天才が紡いだ美しいメロディーの光と影
◆『ベートーベンの真実』谷克二・著 鷹野晃/写真(角川書店/税別1700円)
まさか自分が70歳になって、ベートーベンに目覚めるとは夢にも思っていなかった。
今年の春ごろから、パソコンや携帯を長時間見ていると猛烈に目が痛くなる。テレビはもっとひどくて30分も目を開けていられない。近所の眼科に行ったら「ドライアイ」と診断された。それ以来、目薬をボトボトと、こぼれるように点(さ)しながら、昼間はなんとか原稿を打つ日々。問題は夕食後の時間だった。本も読めないパソコンも使えない。無為な時間をベッドにひっくり返っていて、ふと女性誌の付録のCDがあったのを思い出した。これがベートーベンのピアノ・ソナタだったのである。
どつぼに嵌(は)まるとはこのことかと思った。もはやゴミ屋敷と化しているわが脳内が、不思議にすっきりと清掃されて、緊張がほどけていく。へっ? ベートーベンって、こんなに人に優しかったのかと驚いた。
この記事は有料記事です。
残り1108文字(全文1536文字)