安倍晋三首相の後継を選ぶ自民党総裁選は、党員投票を省略し、両院議員総会で選出することが決まった。国会議員と各都道府県連代表だけの投票で決めるという。
党所属国会議員の3分の1を上回る145人と地方議員403人が党員投票の実施を求め、署名を提出していた。しかし、党執行部は「政治空白を作ることはできない」として実施を拒否した。
首相を事実上選ぶ総裁選である。より民主的な選出方法を追求するのが当然だ。開かれた手続きで選ぶことが、新総裁の基盤を強め、求心力につながる。
新型コロナウイルスへの対応は喫緊の課題である。だからこそ、首相は辞任表明にあたり、追加のコロナ対策を発表し、次期首相が任命されるまでは責任を果たすと明言した。
政治空白が生まれるという執行部の説明を、小泉進次郎環境相は「全くうそ」と否定している。
党員投票には約2カ月かかると執行部は説明している。しかし、都道府県連の中には、投票先を決めるための予備選を事前に実施するところがいくつもある。なぜ全国規模ではできないのか。
党員投票を行わないことで、地方票の比重は大きく減る。過去の総裁選で多くの地方票を獲得した石破茂元幹事長は不利になる。派閥の都合で決めようとしているとみられても仕方がない。
石破氏と岸田文雄政調会長はきのう総裁選への立候補を表明した。菅義偉官房長官はきょう表明するという。
だが、既に首相の出身派閥である最大勢力の細田派、第2派閥の麻生派など主要派閥は雪崩を打って菅氏支持を打ち出している。菅氏の優位は揺るがない情勢だ。
立候補表明も政策合意もなく、派閥の合従連衡で流れが決まっていくのは異様だ。
政府のコロナ対応は、国民との感覚のずれが目立ち、批判を浴びた。であれば、総裁選を通じて、有権者により近い党員の声に耳を傾けるべきだろう。若手議員らが党員投票を求めた背景には、こうした危機感があるのではないか。
自民党が国民との距離を意識せず、地方の声を十分くみ取らないやり方を押し通すのであれば、有権者の信頼は得られない。