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東京へ ともに歩む

毎日新聞

意図的な摂取ではないドーピング違反の立証説明の難しさについて語る競泳男子の古賀淳也=東京都内で2019年11月8日午後5時41分、村上正撮影

Passion

帰ってきた競泳男子・古賀淳也が明かす「サプリとドーピング」暗闇の2年

 白血病で長期休養していた池江璃花子(20)=ルネサンス=の復帰レースに注目が集まった8月29日の東京辰巳国際水泳場。その4時間前、2年4カ月ぶりの実戦に臨んだベテランスイマーがいた。2016年リオデジャネイロ五輪、日本代表の古賀淳也(33)=スウィンSS。ドーピング違反による2年間の資格停止処分が5月に解除された。「競い合い、タイムを意識したレースは尊い時間でした。やっと戻ってくることができました」。暗闇の中で過ごした日々を明かした。【村上正】

散歩をしているだけで涙があふれた

男子50メートル背泳ぎで1位になった古賀淳也(右)=東京辰巳国際水泳場で2020年8月29日(代表撮影)

 「他の選手のレースを見るのも久しぶり。懐かしくきれいだなと思いながらも、自分がやるべきことを考えてました」。レース前、慣れ親しんだプールを2階席のスタンドから感慨深げに見つめた。

 「何かのいたずらか」。そのメールが携帯電話に届いたのは18年4月のこと。送信元は国際水泳連盟(FINA)だった。約1カ月前の抜き打ち検査で禁止物質が検出されたと通知され、暫定的資格停止処分を受けた。

 直後は精神的に追い詰められた。「不正をした人間だと決めつけられ、その中で生きていくと考えると、大きなショックでした」。散歩をしているだけで涙があふれ、周囲の目が怖かった。朝、何気なくテレビをつけ、気づけば夕方ということもしばしば。「死がすぐ隣にあり、ベランダをぴょんと跳び越えれば楽になれるかな」と頭をよぎることさえあった。

一度は水泳を諦め、潔白証明に集中

復帰レースとなった男子50メートル背泳ぎで1位になった古賀淳也=東京辰巳国際水泳場で2020年8月29日(代表撮影)

 FINAからの連絡を受けて2週間が過ぎた。ショックがあまりにも大きすぎ、受け止め切れていない自分に気づいた。「起きたことは起きたこと。それを受け止めないと次のステップに進めない」。我に返り、まずは気持ちを整理することにした。「水泳は一度諦めようと決めました。諦めない気持ちがあるから、逆に切り替えられなかったんです」。禁止物質の摂取が意図的でないと証明することに集中した。

 幼い頃から小食に悩まされてきた。ハードな練習後は食事を十分に取ることも難しい。必要な栄養素を補うため、18年1月から専門家の助言を受けたサプリメントを取り入れていた。そのサプリを疑った。検査機関の調べで、禁止物質が混入していたことがほぼ間違いないという結果を得た。

 それでもFINAは、原則通り4年の資格停止処分を下した。「意図的でないのに、『はい、そうですか』と受け入れるのはありえないことでした」。スポーツ仲裁裁判所(CAS)に不服を申し立てた。検出した物質が極めて微量だったことなどから主張は認められ、昨年8月に処分期間は2年へ短縮された。「自分が納得する形で現役生活を終えたいと考えられるようになりました」。復帰に向け動き始めた。

爆発的なスタートダッシュは健在

 久々のレースに選んだのは非五輪種目だが日本選手権で9連覇し、世界選手権2大会で銀メダルを獲得した思い入れのある50メートル背泳ぎ。「しっかり集中できていました」。スタート位置についた表情はゴーグルでは隠しきれないほどの闘志が宿っていた。

 爆発的なスタートダッシュは健在だった。豪快なストローク(腕のかき)で水しぶきを上げた後半も加速し、25秒04をマークして1位に立った。目標の24秒台に0秒05届かなかったが、「周りの選手に負けたくないという意欲を大きく持て、もっともっと速くなれると思えました」と手応えは十分だった。

 09年世界選手権男子100メートル背泳ぎで金メダルを獲得するなど長く日本の背泳ぎをけん引してきた。ただ、五輪出場は前回のリオ大会の1度だけ。「やっぱり縁がないんだな」。資格停止で東京オリンピックは絶望的となり、一度は諦めたが、大会の1年延期で出場の可能性が生まれた。

 「選手を続けられる時間は限られています。狙えるなら狙いたい」。どん底からの巻き返しを誓う。

こが・じゅんや

 埼玉県出身。埼玉・春日部共栄高時代から将来を期待され、2005年東アジア大会で初めて日本代表入り。09年世界選手権男子背泳ぎの100メートル金メダル、50メートル銀メダル。16年リオデジャネイロ五輪男子400メートルリレー8位。男子50メートル背泳ぎ日本記録保持者。181センチ。早大卒。

村上正

毎日新聞東京本社運動部。1984年、神戸市生まれ。2007年入社。舞鶴支局、神戸支局を経て、大阪本社社会部では大阪府警を担当。17年4月から現職。競技は水泳やサーフィンを担当。東京パラリンピックでは取材班キャップ。16年リオデジャネイロ五輪を取材した感動から、長女に「リオ」と命名した。