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介護ストレス、感染の恐怖、使命感…「ウェブ文通」で支え合うケアワーカー

ケアの仕事をしながら感じた喜びや葛藤がつづられている手紙=ケアレター実行委員会提供

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 新型コロナウイルス感染症への対応を現場で支える介護などの「ケアワーカー」同士が、ウェブ上の手紙や会議を通じて支え合う取り組みが広がっている。収束までの道筋が見えない中、個人の不安や喜びなどを共有。お互いが支え合い、乗り切ろうとする試みだ。

極度の緊張の中で

 8月、東京都内の訪問介護の現場で働く62歳の男性から寄せられた1通の手紙が特設ページ「ケアレター」で公開された。

 「コロナがあってもケアは止まらない。と言うより、ケアは止められないという使命感」

 「ケアは仕事だけれど、私の一部にもなっている」

 手紙の宛先は「ケア人の仲間たち」。同じ介護・福祉現場にいる多くの働き手に対して訴える内容だ。全国各地から寄せられた他の手紙でも、「自分がウイルスを持ち込んでしまわないか」といった率直な懸念から、訪問先から感謝の言葉をかけられて「張り詰めていた心がふっと軽くなったように感じた」といった思いがつづられている。

 今年2月以降、国内で新型コロナウイルスの感染が拡大。感染対策とケアを同時に取り組まなければならない介護や医療の現場では多忙を極めた。現場の人員不足が深刻化する中、一人一人が極度の緊張を強いられた。

現場の負担増

 「人とまちづくり研究所」が5月中旬に全国の介護事業所を対象に実施した調査では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う影響により、大半の事業所で業務が増加した。子どもの世話や家族の介護、本人・同居家族の体調不良などで就業調整や休職を余儀なくされた職員が少なくなく、現場に負担がかかったからとみられる。

 同研究所の代表理事で慶応大学大学院の堀田聡子教授は4月中旬、介護・福祉の現場で働く2人と現状を話し合った。堀田さんらは、不安や働きにくさを感じていても弱音を言い出せない状況を危惧。3人でケアワーカーが気持ちを表に出して、分かち合いながら支え合う活動をウェブサイトで始めることにした。

「ケアレター」の主催者に届いたケアワーカーの手紙=ケアレター実行委員会提供

 活動は「ケアレター」と名付けられ、介護や医療現場で働くケアワーカーから思いを書いた手紙を募り、サイト(https://careletter.jp/)で公開。資格の有無や職種にかかわらず、現役でなくても応募できる。これまで10通を掲載した。

「語りにくい正直な気持ち」

 東京都内で訪問介護の仕事をしている実行委員の鎮目彩子さんは、4月に緊急事態宣言が出て以降、子どもを預ける保育園が休園になり、出勤できなくなったという。鎮目さんは「こんな時だからこそ利用者を支えたいという気持ちが強くあったが、家族感染のリスクもあり、葛藤があった」と自らの経験を振り返る。

 同じく実行委員の金子美和さんは「新型コロナの影響で、日常の職場が、急に感染防止が求められる最前線になり、ケアワーカーも患者や利用者と同じく不安を抱える当事者になった。しかし、頑張ることを求められ、正直な気持ちを語りにくい状況に置かれている」と指摘する。

 感染拡大が進む中、ケアの現場に立つ人たちの就労環境は悪化。これらに加えて、精神や身体のストレスが重なる状況も浮き彫りになっている。

「美容院の予約を断られた」

「子どもが保育園の中で別の場所に置かれていた」

 日本医療労働組合連合会が全国の加盟組織を対象に行った調査では、医療従事者に対するこうした差別的な事例が報告された。また家族から「家に帰ってこないでほしい」などと言われた事例もあった。

「思いを言葉にして」

 金子さんは「ケアワーカーが手紙を書くことで、自分の気持ちを形にして眺めたり、いろんな人の気持ちを知ったりすることで、気付いていない自分の気持ちを発見し、本来の自分を取り戻すきっかけになる」と、活動の可能性を語る。

 堀田教授は「ケアワーカーも利用者・患者と同じく不安な日々で、豊かな暮らしの支援と感染予防のはざまで悩むことも多い。抱える思いを言葉にしていろんな人の気持ちに触れることで深呼吸につながれば」と話す。

 日本赤十字社は、新型コロナウイルスに対応する職員向けに作成した「サポートガイド」をホームページ(http://www.jrc.or.jp/activity/saigai/news/200330_006139.html)で公開した。困難な状況で働く職員が心の健康を維持するために必要な要素の一つとして、「家族や同僚からのサポート」を指摘している。

 具体的には「家族とのコミュニケーション」などに加えて「同じ境遇の人との対話」や「SNSを通じたコミュニケーション」などを挙げている。

オンライン会議も

 大規模な施設内クラスター(感染者集団)が発生した富山県では6月、有志による「とやま安心介護ネットワーク」(TAKN)が発足。週1回ぐらいのペースでオンライン会議などを開催し、感染防止に関わる情報交換のほか、悩みを共有する。グループホームなど施設を訪問するなどの交流も始めた。介護の業務におけるお互いの努力をねぎらい、励まし合っている。

 発起人でケアマネジャーの野村明子さんは「高齢者のQOL(生活の質)や健全経営を考えると、デイサービスなどの施設の運営を維持していくことは欠かせない」と指摘した上で、「互いの感染防止策を共有することで、濃厚接触者を出さずに施設の運営を続けられるなどの具体的な成果も出ている」と話す。【吉永磨美】

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