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#やまゆり園事件は終わったか~福祉を問う

④鳥取で「半日施錠の生活20年」のケースも 障害者の閉じ込めはやめられるか

植松聖被告が最初に侵入した1階「はなホーム」=相模原市緑区で2017年7月6日午前11時2分、宮武祐希撮影

 神奈川県立津久井やまゆり園では、入所者に対して長時間・長期間の身体拘束が行われていたと指摘されている。障害者虐待防止法では「正当な理由なく障害者の身体を拘束すること」は身体的虐待にあたる。虐待認定されたことから居室施錠をやめた施設もある。どうしたら居室施錠や身体拘束をやめられるのか。鳥取県で似たようなケースが起きていた。【上東麻子/統合デジタル取材センター】

「小さな声」に気づかなかった

 <部屋に入れられてばかりで、寂しかった>

 <分かってくれなかったの。みんなとリビングで過ごしたかった>

 <もう部屋にいかない。ここにいる>

 津久井やまゆり園で居室施錠をされていた40代女性が、支援者らに心情を吐露している。神奈川県が作成した「意思決定支援の取組推進に関する研究報告書」に記された言葉だ。

 報告書によると、女性には重度知的障害と統合失調症がある。施設に入所後、精神科病院に2回入院。医師から「刺激の少ない環境設定が望ましい」とのアドバイスがあり、約3年、ほとんど物がない部屋で一日を過ごしていた。状態が悪化すると、自傷や不眠などがみられるが、調子の良いときは言葉でやりとりができ、月1回の「外食」を楽しみにしていた。報告書にある「外食」とは、寮を出て、敷地内の別室で事前に注文した弁当などの昼食を食べることだという。

 事件後、やまゆり園の入所者に対して、今後の生活の場などについて意思をできるだけ反映して選べるようにする「意思決定支援」が行われるようになった。意思決定支援に関わる専門家は、女性の状況を心配し、厳しく指摘した。

 <今の本人の状況からすると、居室施錠が身体拘束の3原則に基づいたものなのか、しっかりと確認する必要がある。いずれにせよ、身体拘束をしている環境は、当然、意思決定支援を行える環境ではないので、早急に見直すべきである>

 ほとんど物のない居室でなくリビングで快適に過ごせるように、女性が苦手なテレビを消して音楽を流すなどの工夫を続けた。職員と話す時間が増え、女性から積極的に話しかけることも増えた。半年後には部屋を施錠する必要がほとんどなくなったという。

 この女性のケースは、報告書の中で「数年ぶりに外出が実現した事例」として紹介されている。一方、職員側の都合や価値観ばかりを優先していないか▽漫然とこれまでの支援を繰り返していないか▽本人の意思を尊重できているか--などを見直し続ける大切さに気づくことができた。また<リスク管理を強調するあまり、女性の「小さな声」に気づかなかった>と教訓も併記された。

身体拘束確認後も神奈川県の動き鈍く…

 神奈川県が昨年末、津久井やまゆり園に立ち入り調査した際、この40代女性を含めて20人25件の身体拘束が確認された。

 神奈川県が設置した「津久井やまゆり園の利用者支援検証委員会」の中間報告でも、24時間の居室施錠など「虐待」の疑いが極めて強い行為が、長期間にわたって行われていたと指摘する。

 しかし、県の動きは鈍い。黒岩祐治知事は「まずは自分たちで検証を、とボールを投げている状態。それがどこまで返ってくるか見極めたい」と話す。

 これに対して、元厚生労働省の虐待防止専門官の曽根直樹・日本社会事業大学准教授は設置者としての県の対応を問題視する。

 「虐待の疑いがあれば、行政が適切に権限を行使することが法で義務づけられている。専門家が指摘し法人側も身体拘束を認めているのに、虐待認定の手続きをしないのは、県が法人を擁護しているように見える。同じことが他の施設であった時にどうするのか。県の法律に対する認識や公平性が疑われる」

鳥取県は迅速に対応

 居室施錠による虐待は鳥取県でよく似たケースが起きている。2016年、障害者入所施設の鳥取県立鹿野かちみ園(鳥取市鹿野町)で、知的障害のある女性入所者3人が20~3年…

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上東麻子

1996年毎日新聞入社。佐賀支局、西部本社、東京本社くらし医療部などをへて2020年から統合デジタル取材センター。障害福祉、精神医療、差別、性暴力、「境界」に関心がある。2018年度新聞協会賞を受賞したキャンペーン報道「旧優生保護法を問う」取材班。連載「やまゆり園事件は終わったか?~福祉を問う」で2020年貧困ジャーナリズム賞。共著に「強制不妊ーー旧優生保護法を問う」(毎日新聞出版)、「ルポ『命の選別』誰が弱者を切り捨てるのか?」(文藝春秋)。散歩とヨガ、ものづくりが好き。

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