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本当だった?「笑う門には福来たる」 介護リスクへの影響、名古屋大が初の大規模調査

笑いの重要性は医学の世界でも注目されている=ゲッティ

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 「笑う門には福来たる」という言葉の通り、笑いが心身の健康に与える効果は、さまざまな角度から科学的に検証されてきた。今回、名古屋大の研究チームが、「笑う人」と「笑わない人」の間で介護リスクがどれだけ変わるかを調べた。約1万4000人を3年間にわたって調べる異例の大規模な研究。果たしてその結果は?【大迫麻記子/統合デジタル取材センター】

笑う回数と「要介護認定」や「死亡」の関係

笑いと介護リスクの関係を調査した、名古屋大大学院医学研究科の竹内研時准教授=本人提供

 研究を行ったのは、名古屋大大学院医学系研究科の竹内研時准教授率いる研究チーム。竹内准教授によると、医学の世界では笑いが健康に及ぼす効果が以前から注目されており、これまでに認知症や糖尿病、心疾患を減らす可能性が指摘されているという。

 今回、名大のチームが調べたのは、笑う回数の多い、少ない、あるいはほとんど笑わない、ということが、「要介護認定」や「死亡」に影響を与えるのかどうかだ。調査は2013~16年に行い、その後のデータ分析や統計処理を経て、このほど結果をまとめた。竹内准教授によると、笑いの頻度が「要介護」に関係あるかどうかを調べた研究は世界でも例がない。しかもこれまでの笑いに関する研究は小規模かつ短期間の効果をみたものがほとんどで、今回のように大規模かつ長期的に調べた研究は、世界でも珍しいという。

 まず、要介護認定を受けていない65歳以上の人にアンケート用紙を郵送し、ふだんの生活のなかで声を出して笑った回数をチェックしてもらって、「ほぼ毎日」▽「週に1~5回程度」▽「月に1~3回程度」▽「ほとんどない」――の四つから回答を選んでもらった。回答の記入にもれのなかった1万4233人を、3年間にわたって追跡調査し、四つの回答と、「要介護度2以上の認定を受けた」人や「死亡」した人との間に関連があるかどうかを調べた。笑いの頻度以外の要因を可能な限り取り除くため、家族構成や既往症、抑うつ傾向などの影響は統計処理の際に調整を行った。

目立つ「笑わない」ことのリスク

 まず笑う回数は、「ほぼ毎日」は6120人、「週に1~5回程度」は5440人、「月に1~3回程度」は1639人、「ほとんど笑わない」は1034人だった。大半の人が頻度はともあれ、笑いのある生活を送っているようだ。

 では、気になる介護リスクとの関係はどうなのだろう。竹内准教授らは、「ほぼ毎日」笑う人たちが要介護認定を受けるリスクを1として、それ以外のカテゴリーの人と比較した。すると、「週に1~5回程度」の人が1.04、「月に1~3回程度」の人は0.97だった。

 この数字の差をどう考えたらいいのか。竹内准教授に尋ねると「0.3~0.4ポイントの差は、統計学的に意味のある差ではない」とのこと。つまり、「ほぼ毎日」笑う人と、「週に1~5回程度」や「月に1~3回程度」笑う人との間には、明らかな差はないと考えていいという。

 問題は、最後の「ほとんど笑わない」人だ。その数字は実に1.42にものぼった。つまり、「ほとんど笑わない」人は「ほぼ毎日」笑う人に比べて、介護が必要になるリスクが単純計算で1.4倍も高くなる、というわけだ。

 今回の調査では、笑いと「死亡」との関連は確認できなかったというが、要介護認定リスクが1.4倍にもなると聞けばおだやかではない。なぜ、笑わないと介護リスクが高まるのだろうか。「明確には分かっていませんが、過去のさまざまな研究によると、笑うことで免疫機能が改善されたり、血液の循環が促進されたりするという報告はあります。笑うこと自体が、ストレスをゆるめる作用があるとも言われています。こうしたことが積み重なって、笑うことが介護予防になり、逆に笑わないとリスクが高まると推測されます」と竹内准教授は分析する。

まずは無理やり、笑ってみよう

 そうとなれば、何としても日々の生活に笑いを取り入れたいところである。とはいえ、新型コロナウイルスで外出もままならないこのごろ。声を出して笑えるようなことは、なかなかない。「幸福論」で知られるフランスの哲学者、アランは「幸せだから笑うのではない、笑うから幸せなのだ」と言ったという。ならば、無理やり笑う「ウソ笑い」でも効果はあるのだろうか。

 竹内准教授は「無理やり笑ってみることも含め、どういう笑いがいいのかという『笑いの質』については、まだ詳しく分かっていません。今後の研究課題です」と語る。

 一方で、介護や医療などの現場では、「最初はウソ笑いでも、笑っているとだんだん本当に楽しくなってくる人は多い」と証言する人は多い。高齢者向けのユニークな活動を展開する「ゆめ伴(とも)プロジェクトin門真実行委員会」の、角脇知佳・実行委員長(50)もその一人だ。

 同実行委は、認知症の人向けのマラソン大会や、認知症のお年寄りが接客を行う「認知症カフェ」などを開催し、2019年に厚生労働省の「健康寿命をのばそう!AWARD」最優秀賞も受賞している。角脇さん自身は大阪府門真市のデイサービス「りんく門真」の施設長で、笑うことと介護リスクに関係があるという研究結果について「現場での実感と一致します。笑うことは人を前向きにし、生きる意欲につながる気がします」と太鼓判を押す。

 笑いの効果を実感している角脇さんは、数年前からデイサービスでも笑いを取り入れた体操を実践している。新型コロナによる外出自粛を受け、外に出られないお年寄りに実践してもらいたいと、この体操を撮影。「おうちde笑いヨガ」と題した動画にして、配信も始めた(https://www.yumetomokadoma.com/)。笑顔で手拍子しながら、「ホッホッ、ハッハッハッ」と、ヨガの呼吸法を組み合わせた内容だ。

笑いヨガを実演する角脇知佳さん=大阪府門真市五月田町のデイサービスりんく門真で2020年6月1日午後6時3分、亀田早苗撮影

 「デイサービスで、初めは恥ずかしがって全然やろうとしなかったおじいさんも、今ではハイタッチしながらノリノリで実践しています。誰でもできるように構成していますので、まずはやってみてほしい」と話す。

「思い出し笑い」のススメも

 一方、体を動かすのはちょっと苦手という人に、竹内准教授がすすめるのは「思い出し笑い」だ。「笑えた場面を思い出し、それと似た状況の再現をこころがけてみるところから、笑いの習慣化を目指してみてはいかがでしょうか」

 さらに「日々の生活の中で、笑った回数をチェックしてみることもおすすめです」とアドバイスする。記者も「正」の字を書きながら笑いの回数をチェックしてみたら、くだらない会話や、ささいなことで、1日の中でけっこう笑っていることを振り返って実感できた。竹内准教授は「身近に高齢者がいる方は、自然と笑いがこぼれるような環境作りを周りの方々と一緒に取り組んでもらいたい」とアドバイスしている。

大迫麻記子

1999年入社。暮らしや経済、文化・スポーツを中心に、徹底したユーザー目線で「今」を伝えます。

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