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今よみがえる森鴎外

/18 越境する文学 文化人類学的な視点も=作家・多和田葉子

ベルリンにある森鷗外記念館。同館は鷗外がドイツ留学中に下宿先として滞在したアパートだった=Pictures made by Kai Kappel

 <文化の森 Bunka no mori>

 ドイツでは数カ月前から毎日のように「ロベルト・コッホ研究所」の名を耳にする。この研究所の見解に耳を傾けて、政府が新型コロナウイルスに対する政策を決めていくのを見ていると、ドイツでは自然科学が政治の重要な羅針盤として機能しているのを感じる。

 森鷗外はドイツ留学中の1887年、北里柴三郎とともに細菌学者ロベルト・コッホを訪ねている。伝染病を阻止すること、衛生環境を整えることなどが近代化を急ぐ日本の大きな課題の一つであった当時の日本ではまだ、目に見えないウイルスや細菌というものの存在を実感しにくかったようだ。「カズイスチカ」という短編小説の中で鷗外は、丁寧に消毒した手をありあわせのてぬぐいで拭く老医の姿をユーモラスに描いている。ただ、この老医が医者として劣っているかと言えばそんなことは全くなく、患者を一瞥(いちべつ)して下す診断の正しさやどんな患者にも全力で向き合う態度に最新の医学に通じていた息子も敵(かな)わない。

 「カズイスチカ」に感じられるユーモアや余裕は帰国後24年ほどたっているからこそ生まれてくるものなのかもしれない。西洋と日本を比べて頭の中で文化の境界を自由に行き来しながら、食事や都市建設のあり方など文明全体に思考をめぐらす。同じ時期に書かれた「妄想」なども発酵した越境作品と言えるだろう。

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