「生きていることをそのまま表現する」 日産アートアワード・グランプリ受賞の潘逸舟さんインタビュー
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次世代の現代美術を担う作家を支援する「日産アートアワード2020」(日産自動車主催)でグランプリを受賞した潘逸舟(はんいしゅ)さん(32)は上海市生まれの現代アーティストで、揺らぐ自身のアイデンティティーや、移動しながら生きることをテーマに制作を続けている。同アワードの受賞作品「where are you now」に込めた思いや、展示の準備を進める次回作などについて話を聞いた。【聞き手・平林由梨】
他者と当事者のはざまで
――日産アートアワードのグランプリ受賞について、感想をお聞かせください。
◆一人の作家として、移民として、受賞できたことをとてもうれしく思っています。
――潘さんが来日したのはいつですか。
◆上海で生まれ、9歳の時に青森県弘前市に引っ越してきました。先に両親が留学していて、生活が安定してから、私も呼ばれた形です。それまでの3~4年間は、祖父母と上海に残っていました。
はじめは、日本語は全く分かりませんでした。でも、好奇心の方が不安よりも勝っていました。初めて雪を見たときはとてもうれしかったです。
大人である親は目的があって生まれた国とは異なる土地で言葉を習得しながら生きていくけれど、子どもの私にはそういう目的はありません。そこにいる意味や理由がない分、果たして自分はこの社会の当事者なのか、それとも他者なのか、そのはざまで世界を見ていました。このことは今でも作品のテーマに通底しています。
――受賞作品「where are you now」は、一つの消波ブロックを模した高さ3メートル近い立体作品の周りに波が打ち寄せるインスタレーション作品です。制作の意図を教えてください。
◆消波ブロックは普通、いくつも重なり合って波打ち際に置かれますよね。重たいコンクリートで、一度置かれたらそこから動くことはない。私には、それは「家」や「群れ」と重なりました。作品は、そこから一つだけ外れて波にさらわれそうになっている浮遊するブロックをイメージしています。
あの立体作品は、青森のねぶたのように木で外枠をかたどり、中は空洞になっています。表面にはエマージェンシーシートと呼ばれる銀色のアルミ素材を貼り付けました。これは宇宙という未知なる場所に行くために開発された素材と言われています。また、ギリシャなどで、船でたどりついた難民に配られている物資の一つとも聞きました。そのシ…
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