
船内にはびこった新型コロナウイルスは手ごわく、悪戦苦闘の日々は続いた。
神戸大学の岩田健太郎教授が2月18日、2時間ほど船内に入り、感染症対策の甘さをインターネットの動画サイトで告発(のちに削除)した。この影響でDMAT(災害派遣医療チーム)の応募が途絶えた。同日、DMATの隊員の感染も確認され動揺が広がっていく。
12日から、感染症予防の専門家でつくる日本環境感染学会のチームが安全対策の指導を始めていた。チームが残した文書には手指消毒やマスクの扱い、検体採取の手順までこと細かく書かれている。これに準拠して活動は行われていた。ところが、ともに活動すると思われていた当の学会チームはわずか3日で撤退する。なぜだ。「危険」を感じたためなのか。DMAT隊員らに「専門家」への強い不信感が募っていたところに、岩田教授が来て告発したのだった。
15日以降、船内の発熱患者は激減し、感染症対策が軌道に乗り始めていた。そんな時に「対策不足」を指摘された形だ。しかし、船内活動を指揮してきた厚生労働省DMAT事務局次長の近藤久禎(50)には自信があった。多くの機関と一緒に、絶望的な環境をここまで乗り切ってきたのだ。「どんな現場にもリスクはある。覚悟はみんな持っている。専門家は知識で指導しようとするが、それだけでは必ず困ったことになる」
消毒や防護策をさらに徹底し、気持ちを鼓舞し合いながら、活動は最後まで続いた。彼らには現場を放棄することなどできない。
しかし、その現場から帰還した医師らが、実は激しい差別に遭っていた。職場の病院に戻ったところ…
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