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常夏通信

その61 戦没者遺骨の戦後史(7) 硫黄島で掘り起こした 木の根に貫かれた遺骨

硫黄島に上陸する米軍=1945年2月19日

 硫黄島(東京都小笠原村)の中央部にある自衛隊滑走路の西側で、私が参加した遺骨収容団は土を掘り進めた。2012年7月。すぐに遺骨が見つかった。大腿(だいたい)骨、つまり太ももの骨は分かりやすい。それ以外にも、部位は分からないが、文字通り数え切れないくらいの骨を掘り出した。

 あたりは火山灰がまじる黒土だ。植物が育つには厳しい土壌だと思うのだが、意外に緑が多い。そして緑の茂るところを掘ると、遺骨が見つかる。その遺骨には草や木の根がクモの糸のように絡みついている。

 これは、ひょっとすると……。草木が遺体、遺骨を栄養分にしてきたのでは? そんな想像をした。それが確信となったのは、また1本、大腿骨を掘り起こした時だ。長さ30センチほどの骨の真ん中を、木の根が貫いていたのだ。

 一年中「8月ジャーナリズム」=戦争報道をしている常夏記者こと私は、大学と大学院で日本の近現代史を学んだ。日本の近現代史は戦争の歴史であり、戦史を学ぶことは不可欠だった。記者になってからも、戦争体験者や研究者への取材を進めていた。だから戦争について、それなりの知識を持っているつもりだった。しかし、次回以降も書いていくように、この遺骨収容の現場では、常夏記者の想像力をはるかに超える驚きの現実がたくさんあった。

 大腿骨を貫く木の根、はその一つだ。植物のそばに遺体が埋められたのではない。植物が遺体を栄養分にして、地上の緑となっていたのだ。戦没者は血肉だけでなく、骨の髄まで栄養分になっていたことは明らかだった。

 私はこの大腿骨を見て、あまりの衝撃で言葉が出なかった。

 現場で私の師匠となってくれた68歳(当時)の男性は、その骨を見て言った。男性の父は陸軍の軍人で戦死した。守備隊の指揮官、栗林忠道中将と最後まで一緒にいた、という。

 「……かわいそうに。島では飢えていただろうに。亡くなってからは木に食われるのか……。情けない……」

 私は硫黄島の戦いから生還した3人にインタビューしたことがある。米軍は1945年2月19日に上陸する前、辺りの制海権、制空権を握っていた。このため日本軍守備隊への補給は極めて困難になっていた。さらに上陸後はほぼ不可能となった。日本軍兵士は敵の攻撃だけでなく、飢えと渇きにも苦しんでいたのだ。

 圧倒的に優位である米軍に対して、日本軍守備隊は奇跡的な善戦をした。B29など米軍機の日本本土空襲を減らす、あるいは米軍の本土侵攻を遅らせるという役目は果たしたといえるだろう。しかし補給をしなくなった時点で、陥落は確実になった。「75年前に戦っていた兵士たちも、そう悟っている人がいただろう。どんな気持ちだったのか……」。遺骨を掘り起こしながら、彼らの心中を思った。

 硫黄島は他の小笠原諸島とともに68年、アメリカから日本に返還された。遺骨収容は、同年から今日までほぼ毎年行われている。翌69年度には2837体分の遺骨を収容した。しかし、これがピークであった。返還後の収容は、生還者らの証言や旧日本軍の資料などをもとに進められた。しかし証言も資料も限りがある。

 日本軍は総延長18キロもの地下壕(ごう)を拠点に戦闘を続けたため、多くがそこで亡くなった。このため地下壕を掘ることが遺骨収容につながる。しかし硫黄…

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栗原俊雄

1967年生まれ、東京都板橋区出身。早稲田大学政治経済学部卒、同大学院修士課程修了(日本政治史)。96年入社。2003年から学芸部。担当は論壇、日本近現代史。著書に「戦艦大和 生還者たちの証言から」「シベリア抑留 未完の悲劇」「勲章 知られざる素顔」(いずれも岩波新書)、「特攻 戦争と日本人」(中公新書)、「シベリア抑留 最後の帰還者」(角川新書)、「戦後補償裁判」(NHK新書)、「『昭和天皇実録』と戦争」(山川出版社)など。

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