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昭和最後の20年、単純化の暴力 愚かになった境目つぶさに 作家・磯崎憲一郎さん

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磯崎憲一郎さん=東京都千代田区で、藤井太郎撮影
磯崎憲一郎さん=東京都千代田区で、藤井太郎撮影

 いつからこんなに恥ずかしい時代になったのか。何事もわかりやすく一言でまとめる厚顔無恥のコメンテーターたち。歴史が単純な物語にされ、現実の細部を、本来は複雑多岐であるはずの人々の経験、精神を存在しなかったものとする。社会が愚かになっていく境目、1970年代から80年代の個々の心理、そこから浮かび上がる社会のムードを今書かなければ――。そんな思いを抱く作家、磯崎憲一郎さん(55)に聞いた。

 <幸福の只中(ただなか)にいる人間がけっしてそのことに気づかないのと同様、一国の歴史の中で、その国民がもっとも果報に恵まれていた時代も、知らぬ間に過ぎ去っている>。こんな書き出しで始まる磯崎さんの新作小説「日本蒙昧(もうまい)前史」(谷崎潤一郎賞)は70年代から80年代、時の人となった五つ子の赤ちゃんの父やグアム島から戻った元日本兵、太陽の塔に立て籠もった青年らの内面を自由に紡いでいく。

 「ここ何作か長編を書いてきて、やはり自分にとって切実なこと、切実な時代を書かなければという思いが湧いてきたんです」。磯崎さんの言う「切実な時代」とは自身が育った昭和40年代初頭以降の、昭和最後の20年のこと。「評論家の蓮実重彦さんが以前、ご自身が子供だった戦前の、意外に豊かで穏やかで涼しげだった時代の話をされ、自分にも描くべき時代があると漠然と感じていたんです」

 「…

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