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タイの反政府デモ 強権だけでは収まらない

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 タイ各地で、プラユット政権退陣を求める反政府デモが続いている。政府は新型コロナウイルス対策の非常事態宣言を再三延長して抑え込もうとしているが、功を奏していない。

 契機となったのは、政権と対立していた新興野党が2月に解党命令を受けたことだ。政権批判の勢いをそぐ狙いは明らかだった。

 6年前のクーデターで軍事政権となったタイは、昨春の総選挙で民政復帰した。だが実際には、政治への軍の影響力は憲法で保障され、軍事政権トップだったプラユット氏が首相になった。

 政権は、デモ指導者を相次いで逮捕した。先月下旬には、新型コロナの市中感染ゼロが90日以上続く中で5回目の非常事態宣言延長を決めた。

 だが、デモの勢いは衰えていない。力ずくで不満を抑え込むことは難しいだろう。

 タイではこの20年近く、政治混乱が続いてきた。クーデターが繰り返され、反政府デモ鎮圧で多数の犠牲者が出たこともある。

 背景には、2001年のタクシン政権誕生で農村住民や貧困層の政治意識が高まったことがある。既得権を握ってきた都市エリートらとの対立が深刻化した。

 注目されるのは、タブーだった王室批判まで公然と語られるようになったことだ。不敬罪廃止などを求める声が出ている。

 王室は、軍や司法機関とともに既得権益層だと見なされてきた。国民から慕われたプミポン前国王の下では、社会を安定させる一定の機能を果たしていたが、4年前の代替わりを経て状況は様変わりしたようだ。

 フェイスブック(FB)上に「王室のあり方」を議論するページが作られ、100万人以上が登録した。政権は国内からのアクセスを遮断したが、開設者であるタイ人の京都大准教授は別のページを立ち上げて「応戦」している。

 タイの1人当たり国民所得は8000ドル近くなり、教育水準も上がった。豊かになった社会で、若者を中心に変革を求める声が出るのは自然なことだ。

 社会の安定を取り戻すのは政権の責務である。混乱の長期化を避けるため、批判の声に耳を傾けねばならない。

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