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大阪地検特捜部による証拠改ざん事件の発覚から10年。検察は、容疑者の自白に過度に依存してきた捜査の在り方を根本から変える改革を迫られてきた。取り調べの録音・録画(可視化)は定着し、客観証拠を重視する流れも強まりつつあるが、新たな課題も浮上している。【金寿英、志村一也、二村祐士朗】
休憩時の屈伸運動も録音・録画
2018年夏、東京拘置所の取調室。東京地検特捜部に逮捕された容疑者の男性は連日、特捜検事と相対していた。検事の左斜め後ろには、男性だけが映る角度でビデオカメラが固定されていた。録音・録画は入室時から始まり、休憩時に立ち上がって屈伸運動をすると、「そっちだと映らない。こっちでやって」と事務官に促されたという。
特捜検事はかつて、取調室で容疑者と長時間向き合い、時には威圧的に迫って自白を得ることに力を注いできた。しかし、証拠改ざんを生んだ郵便不正事件では、大阪地検特捜部が、村木厚子・厚生労働省元局長が部下に不正を指示したとするストーリーに沿った供述調書を次々と作成。密室での強圧的な取り調べが問題視された。ついにはストーリーに合わせる形で証拠品のデータを改ざんする事態まで発覚し、供述調書依存からの脱却と、可視化の本格導入を迫られた。
法相の私的諮問機関「検察の在り方検討会議」の11年3月の提言を経て、可視化の対象は、裁判員裁判対象の重大事件に加え、検察の独自捜査事件にも拡大した。検察は真相が語られなくなると消極的だったが、「自白の強要があった」との争いは激減。可視化は有効との意識が生まれ、事件を問わず導入が広がった。自白の映像を「最良の証拠」と位置付ける考えから最高検は15年2月、有罪を直接証明する証拠としての活用を全国の地検に促した。
裁判員裁判の法廷で、容疑者が自白する取り調べ映像が上映され、裁判員の心証に訴える機会が増えた。だが、裁判官からは否定的な声も出る。栃木県日光市(旧今市市)の女児殺害事件では、東京高裁が18年8月、「取り調べの映像を見ると印象に基づく直感的な判断になる可能性がある」と苦言を呈した。ベテラン刑事裁判官は「捜査段階の供述態度が、有罪かどうかの判断材料になってしまうのは危険だ」と指摘する。
都合の良い部分だけ切り取り証拠化?
任意捜査に可視化をどう広げるかにも課題が…
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