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新型コロナウイルス対策を巡って、行政のデジタル化の立ち遅れが浮き彫りになった。
国民への給付金や企業補助金の支給でオンライン申請が機能しなかった。病院が保健所に手書きのファクスで感染者情報を伝える仕組みは海外でも驚かれた。
菅義偉政権は行政のデジタル化を一元的に推進する「デジタル庁」を来年度中に設立する方針だ。内閣官房や総務省、経済産業省などに所管が分かれ、縦割り行政の弊害が大きいと判断したためだ。
デンマークや韓国は省庁横断の新組織設立を機にデジタル化を加速した。菅政権の狙い自体は理解できる。
ただ、国民にとって安心で使いやすいシステムを実現するには課題が多い。
政府は2001年の森喜朗政権による「e-Japan戦略」以来、20年にわたりデジタル化推進の旗を掲げてきた。安倍晋三前政権まで関連予算は数兆円にのぼる。だが、医療や福祉などで国民が利便性を実感できるデジタル化を実現できなかった。
新設した内閣情報通信政策監を「電子行政の司令塔」と位置付けて、縦割り行政の打破も目指した。しかし、各省庁や自治体のシステムはバラバラのままで、コロナ対策では省庁横断のテレビ会議さえ満足に開けない有り様だった。
霞が関のIT人材が不足し、システムの設計が業者任せになっている問題もある。「失われた20年」の検証なしではデジタル庁を設けても成果は上がらないだろう。
菅首相はマイナンバーカードの普及促進も打ち出している。カードの保有率が2割弱にとどまり、コロナ給付金のオンライン申請のネックとなったからだ。
運転免許証との一体化などで利便性を高めることを検討している。ただ、普及が進まない背景には、個人情報漏えいなどセキュリティー面での根強い不安がある。
デジタル庁構想は政府の未来投資会議メンバーの竹中平蔵元総務相らが助言したとされ、経済界も後押ししている。
肝心なのは幅広く利用される国民本位のデジタル化構想をつくれるかどうかだ。行政コスト削減も必要だ。それがないままでは、再び失敗しかねない。