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還暦記者・鈴木琢磨の、ああコロナブルー 酒場に乾杯 そこで会える「誰か」が恋しい

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「酒場のおやじを引退し、ようやく普通の老人になれそうです」と伊藤伊那男さん=東京都練馬区の石神井公園で、鈴木琢磨撮影
「酒場のおやじを引退し、ようやく普通の老人になれそうです」と伊藤伊那男さん=東京都練馬区の石神井公園で、鈴木琢磨撮影

 カナカナ、カナカナ……。ヒグラシが夏の終わりを告げている。夕暮れにはまだ早い。さっきからわが行きつけだった居酒屋「銀漢亭」主人で俳人の伊藤伊那男さん(71)と石神井公園(東京都練馬区)かいわいを歩いている。東京は神保町の俳句酒場として繁盛していたが、コロナ禍もあり、この5月いっぱいで閉めた。ひとつ、またひとつと赤ちょうちんの灯が消えていくのは切ない。でも、久しぶりに会った伊那男さん、ひょうひょうとしているのだ。カウンターに立っていたころはなかったはずの白いひげまでたくわえて。

 「まる17年ですか。昔から一度やってみたかった酒場のおやじ、楽しかったですよ」。その俳号が語る通り、信州は伊那谷の生まれ。大学を出て証券・金融の世界で生きた。だが、バブルの崩壊で設立した金融会社は破綻する。「葬儀委員長のような社長を務め、会社の後始末を終え、ほうほうのていで狂乱の舞台から逃げ出しました」。半年ほど近所の寺の草むしりなどをして過ごし、古本屋街の裏通りに立ち飲みスタイルの酒場を開く。53歳になっていた。毎日新聞東京本社からも近く、伊那男さんが京都時代に覚えたちりめん山椒(さんしょう)やかす汁が関西人の私の舌を喜ばせてくれた。酒場詩人、吉田類さんもひいきにした。

 そっと看板を下ろしていたのを知ったのは7月の下旬、ふらっと立ち寄った練馬区立石神井図書館でのこと。雑誌コーナーに伊那男さん主宰の俳句結社誌「銀漢」があったので、手に取ると閉店の知らせ。都心にはほとんど出なくなったから、うかつにも気づかずにいた。小さな結社誌が並んでいたのは編集長の武田禅次(みねつぐ)さん(75)がたまたま地元の人だったからで、伊那男さんに電話すると「それは奇遇だなあ」。かくして三匹のおっさん散歩とあいなった。聞けば、武田さんは北京…

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