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東京都交響楽団「都響スペシャル9/16」

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三重協奏曲でソロを務めた矢部(ヴァイオリン)と小山(ピアノ)、宮田(チェロ) 提供:東京都交響楽団 (C)堀田力丸
三重協奏曲でソロを務めた矢部(ヴァイオリン)と小山(ピアノ)、宮田(チェロ) 提供:東京都交響楽団 (C)堀田力丸

【都響スペシャル9/16~矢部達哉・都響コンサートマスター就任30周年記念】

 東京都交響楽団の定期演奏会に代わる主催公演となる「都響スペシャル」。9月はいずれも音楽監督・大野和士の指揮で二つのプログラムによるコンサートが開催された。取材したのは16日、会場はサントリーホール。曲目はオール・ベートーヴェンで、ピアノ、ヴァイオリン、チェロのための三重協奏曲ハ長調、交響曲第3番変ホ長調「英雄」。

 ソロ・コンサートマスター矢部達哉の就任30周年記念と銘打たれた公演で、コンチェルトのヴァイオリン独奏は矢部が担当し、小山実稚恵(ピアノ)と宮田大(チェロ)という2人の人気アーティストとともに充実のアンサンブルを繰り広げた。

 指揮者が変わればオーケストラのサウンドや演奏が変わるのは、音楽愛好家なら誰でも知っていることだが、コンサートマスターによってもかなりの違いが生じてくる。その要因のひとつは弦楽器のボウイング(弓使い)。大抵の場合はコンマスがヴァイオリン・セクションの弓を決め、それに合わせて弦全体の弓使いが決まってくる。アップ・ダウンはもちろん、全弓か部分的に使うのか、また運弓の速度など音に変化をもたらす要素が満載であるからだ。また、動きが不明確な指揮者が客演した場合など、合奏にほころびが生じないよう要所で自らの演奏動作をもってオケ全体をリードしたりもする。そして重要な役割はそれらを通して指揮者の意図をオケ全体に伝えることである。さらに大切なのがコンマスの演奏に対する姿勢であり、気迫である。指揮者の意図にコンマスが共感、納得していないのか、コンマスが気迫に欠ける演奏を行った結果、指揮者がいくら汗だくで奮闘してもオケの演奏全体に熱が入らなかったステージを何度も体験している。

「英雄」で矢部はコンサートマスターを務めた。指揮者は大野和士 提供:東京都交響楽団 (C)堀田力丸
「英雄」で矢部はコンサートマスターを務めた。指揮者は大野和士 提供:東京都交響楽団 (C)堀田力丸

 世界中にいろいろなタイプのコンマスがいるが、矢部は音楽に誠実に向き合い、その時々の指揮者の解釈に対して共感しているかどうかは別にして常に気迫のこもった演奏を心がけるタイプのコンマスというのが筆者の印象である。都響の公演は燃焼度が高いことで知られるが、矢部のこうした姿勢によるところも大きいのではないだろうか。

 この日の交響曲第3番も矢部の前向きのリードによって目を見張る熱演となった。大野の解釈はいつもながらクレバーで一部のすきも感じさせないもの。ピリオド(時代)奏法に寄せたスタイルではないが、曲想によってはそうしたテイストも自然な形で取り入れて、現代におけるバランスの取れたベートーヴェン像を提示してみせた。都響は熱気を漲(みなぎ)らせながらもひとつひとつの音符やフレーズをしっかりと弾き進めていくことで引き締まった演奏を聴かせてくれた。大野と矢部の信頼関係があってこその完成度と〝熱さ〟に満ちたベートーヴェンであった。終演後、オケが退場しても喝采は鳴りやまず、大野と矢部がステージに呼び戻された。新型コロナウイルスの感染防止のためブラボーは禁止されていたが、「ブラボー」と書かれた布や紙を掲げてみせる聴衆の姿もあった。退館時、後ろを歩いていた若い夫婦が「こんなに気迫がこもったエロイカはなかなか聴けないね。来てよかった」と話していた。同感である。

(宮嶋 極)

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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