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片岡仁左衛門さん 「梶原平三誉石切」の魅力を語る 敵役が正義の味方として描かれる芝居=完全版

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片岡仁左衛門さん=梅村直承撮影
片岡仁左衛門さん=梅村直承撮影

 今回は東京・歌舞伎座の「十月大歌舞伎」、第3部で「梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)(石切梶原)」で梶原平三景時を演じる片岡仁左衛門さんにご登場いただく。舞台出演は2月の同劇場以来だ。

 「やっと舞台に立てるというのが今の心境です。役者はライブ、今現在を生で見ていただけるのが最高の幸せで実現できるのは本当にありがたいです」

むちゃな筋立てを俳優の魅力で見せる

 鎌倉・鶴ケ岡(鶴岡)八幡宮の社頭で平家方の梶原と大庭三郎、俣野五郎兄弟がいるところに六郎太夫(ろくろだゆう)と娘の梢が、大庭に刀を売りにくる。刀の鑑定を大庭に依頼された梶原は名刀と見極めるが、俣野は切れ味を試すことを大庭にすすめる。死罪の罪人2人の試し切りをすることになるが、罪人は呑助(のみすけ)という男ひとりしかいなかった。

 六郎太夫は梢を去らせ、自身をもうひとりの試し切りにしてくれと頼み、戻った梢が止めても応じない。梶原は試し切りをするが、切られたのは呑助だけ。大庭兄弟はあきれて帰る。梶原は親子の前で石の手水(ちょうず)鉢を真っ二つにして見せ、刀は自分が買うという。梶原は六郎太夫の命を助けるため、わざと切り損じていた。

 こうかいつまんで書くと、むちゃな筋立てに思えるが、それを俳優の魅力で見せるのが、この作品である。

 舞台面が美しい。一般的な現行演出では、朱塗りの八幡宮本殿が背景となる。その前に白綸子(りんず)の着付けに矢筈(やはず)(矢の上端をかたどった模様)の紋を縫い取った上下(かみしも)姿の梶原が座す。

3系統の「型」

 仁左衛門さんの初演は1978年の京都・南座。三代河原崎権十郎に教わった。「石切梶原」には大別して初代中村吉右衛門が編み出した播磨屋型、同じく十五代市村羽左衛門の橘屋型、初代中村鴈治郎型の3系統がある。「十五代目さん(羽左衛門)の型を教えていただきました。歌舞伎の主役はわりとしどころが少なく、脇役がみんないいところを持っていきます。それでいながら華やかになるように心がけます」

 見せ場はいくつかある。刀の目利きをする場面、2人を重ねて試し切りするのを「二つ胴」と呼ぶが、その「二つ胴」の場面。そして手水鉢を切る場面。

 梢の夫は源氏方。婿に金を用立てるため、六郎太夫は刀を売ろうとし、自ら試し切りされることを申し出る。その六郎太夫に優しい言葉をかける梶原は、「捌(さばき)役」と呼ばれる分別のある武将役だ。

 「六郎太夫は高僧に諭されるよりもあなたの言葉がうれしいと梶原に言います。梶原はそれほどの人物でなければならない。六郎太夫に言い聞かす際も滋味があるようにできればと思います」

 播磨屋型は手水鉢を後ろ向き、橘屋型は前向きに切る。その際に手水鉢の両側に親子を立たせ、水に映った2人の影を、二つ胴に見立てる。

 「そういうところが橘屋型は派手ですが、派手さが先行して人間味、優しさが飛んでしまってはいけません」

華やかさの中にさみしさ表現

 手水鉢を切ると、梅の花びらが舞い落ちる。「刀を振るった時に出るエネルギーで花びらがチラチラと落ちる。そういう刀なんですよね」

 梶原は平家方の武将だが、源氏に思いを寄せ、石橋山の合戦で敗れた源頼朝を見逃してやった。平家に付いたり、源氏に付いたり。その昔は二股武士と嫌う俳優もあった。

 「祖父(十一代仁左衛門)も嫌いで絶対にやらなかった。マジックと一緒。下手だと『そこがおかしい』となりますが、うまい人だと言う隙(すき)を与えない。お客様を冷めた感覚にさせないように運ぶことが大事です。梶原に『死後の悪名受くるとも』というセリフがあります。平家方に付いているのに、源氏に心を寄せている。だから悪名を受ける覚悟をしている。華やかな中にちょっとさみしさを持っているんです」

久しぶりの舞台にウキウキ

 「人前に出るのも、ネクタイをするのも半年ぶり」と笑う。

 「いつもなら、自宅での稽古(けいこ)も公演が迫ってからですが、今回はウキウキして狂言(演目)が決まった途端にセリフの練習やら、いろいろやっています」

 梶原平三は何度も演じてきた役だ。それでもセリフを口にする間に新たな発見があると話す。

 「今までは芝居の流れを大事にしていました。例えば『あまた剣は見つれども、かほどの名剣手に触れしは、今が始めの終わりなり』というセリフ。これまでは、さあっ…

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