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常夏通信

その63 戦没者遺骨の戦後史(9) 硫黄島での宿泊は〝敵国〟米軍宿舎 戸惑いと興奮で眠れず

硫黄島には戦車や航空機などの兵器が多数残っている。写真は遺骨収容現場の近くに残る米軍の戦車=2010年12月14日、栗原俊雄撮影

 第二次世界大戦の激戦地、硫黄島(東京都小笠原村)で戦没者遺骨収容団に参加した私は、初日から多数の遺骨を掘り起こした。2012年7月。自衛隊の滑走路西側が現場だ。朝8時から現場で作業を始め、11時前に中断。いったん宿舎に戻り昼食を取る。午後2時前から作業を再開し、3時半ごろ終了する。現場でミーティングをして撤収。午後4時過ぎ、宿舎に戻った。全身汗まみれだ。

 遺骨収容団の多くが宿泊したのは、米軍が硫黄島の基地をNLP(夜間発着訓練)で利用する施設だった。割り当てられた2人部屋はアメリカ人仕様なのか、トイレやシャワーが日本人向けのそれと異なる。壁にある電源のコンセントもあちら仕様だ。

 「米軍との戦闘で亡くなった日本人の骨を捜す自分が、ここに寝泊まりするのか……」。少し戸惑いながら、シャワーで汗を流した。汗で湿り異臭を放っている衣類は、共用の洗濯機を交代で使い、翌日に備えた。

 宿舎の外を自由に歩くことは許されていない。夕食や翌日に向けたミーティング、清掃などを終えて午後10時消灯。

収容1日目 興奮で眠れず

 作業時間は、参加前に想像していたより短かった。熱中症対策もあって、こまめに休憩があった。水分、食べ物も十二分にとった。それでも炎天下の活動で、疲れ果てていた。

 一年中「8月ジャーナリズム」=戦争報道をしている常夏記者こと私は、1年半前の10年12月にも渡島し、同じ現場で掘り起こされた多数の遺骨を、すでに見ていた。収容団に参加すれば当然、自分も遺骨を手にすることは想像していた。しかし自分の手で数え切れないほどのそれを掘り出してみると、衝撃は想像以上に大きかった。

 宿舎周辺は静かで、部屋は冷房が利いている。しかしベッドに寝転がっても、昼間の興奮が収まらなかったためか、いっこうに眠くならない。「明日も朝からハードだ。しっかり寝ておかないと」と思うが、目はさえるばかりだ。眠れないので、さまざまなことを考えてしまう。

 1952年に日本は主権を回復した。日本各地に米軍基地が残ったのは、読者諸氏ご存じの通り。硫黄島もその一つだ。

 アメリカは戦死者6821人すべての遺骨を収容したとされる。同諸島が日本に返還されたのは68年。敗戦から返還までの23年間、硫黄島で日本政府による日本人戦没者の遺骨収容はほとんどできなかった。「もっと早く、占領下でも何とかして収容を進めていたら。より多くの遺骨を遺族に返すことができたのに」。そんなことを思うと、昼間に掘り起こした遺骨が脳裏によみがえる。植物の栄養になるかのように、木の根に貫かれた太ももの骨。一見丈夫そうに見えても、ほんの少しの力できな粉のように細かい粒になってしまった骨……。

 激戦を奇跡的に生き抜いた元兵士、金井啓さん(2009年、85歳で死去)のことも思い出した。

 前回の本連載でも触れた通り、金井さんは1944年2月に硫黄島に渡り、最初は「住めば都」と感じていた。しかし、ほどなく食糧難と水不足で苦しんだ。戦闘が始まると、「都」は地獄となった。圧倒的に優勢な米軍に対して、本土からの援軍はほとんどない。金井さんがいた司令部からは、本土に向けて武器弾薬などの補給を依頼する電報を送った。すると数日後に輸送機が飛来して、落下傘で補給品…

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残り1335文字(全文2683文字)

栗原俊雄

1967年生まれ、東京都板橋区出身。早稲田大学政治経済学部卒、同大学院修士課程修了(日本政治史)。96年入社。2003年から学芸部。担当は論壇、日本近現代史。著書に「戦艦大和 生還者たちの証言から」「シベリア抑留 未完の悲劇」「勲章 知られざる素顔」(いずれも岩波新書)、「特攻 戦争と日本人」(中公新書)、「シベリア抑留 最後の帰還者」(角川新書)、「戦後補償裁判」(NHK新書)、「『昭和天皇実録』と戦争」(山川出版社)など。

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