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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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「テレビの前では…

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 「テレビの前では、指導者の資質はあってもスターの資質がない者は必ず失格する。……その結果、われわれはリンカーンたるべき人物を失いそうになっている」。確かに、リンカーンは風采(ふうさい)が上がらなかった▲先の言葉、1960年の米大統領選の初のテレビ討論で、若きケネディの前で疲れたさえない表情をさらして苦杯をなめたニクソンのものだ。この時、ラジオで声だけを聞いていた人が、ニクソン優勢と感じたという話は有名である▲討論の勝利が直ちに選挙の勝利をもたらすわけではない。20年前の討論では民主党のゴア氏が共和党のブッシュ(子)氏を圧倒したが、相手を見下す態度が有権者の反感を買ってしまう。テレビのキーワードは「好感度」なのである▲トランプ大統領とバイデン候補の初の直接対決となったテレビ討論である。相手の話に割り込んで司会者ともやり合うトランプ氏と、非難の泥仕合(どろじあい)を避けてカメラ目線で自説を語るバイデン氏と。さて好感度はどちらに傾くのだろう▲トランプ支持派は論敵に目も向けぬバイデン氏を「弱い」と見たろうし、バイデン支持派はトランプ氏の余裕のない多弁に「焦り」を見ただろう。肝心の論議はさっぱりかみ合わず、お互いに相手を追い詰められなかった90分だった▲分断深まる米国社会で「討論」は形をなさず、「好感度」もそれぞれの支持者の好みを裏書きするだけの今日だ。腕時計をチラッと見たのが敗因などといわれた昔が懐かしくなる2020米大統領選である。

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