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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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明治初め、金融取引所の開設に政府内で…

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 明治初め、金融取引所の開設に政府内で「国民の賭博心を助長する」と反対が出た。これに対し大蔵大(たい)丞(じょう)の渋沢栄一(しぶさわえいいち)は「人には現物を取引するほかに、景気を売買したがる性質がある」と取引所開設を擁護した▲「日本資本主義の父」にして4年後の新1万円札の肖像になる人物らしい話だが、退官後の渋沢は実際に東京株式取引所の創立にも参加した。その後身である東京証券取引所は今では3700銘柄を上場する世界有数の取引所である▲その東証のシステム障害により、きのう終日、全銘柄の売買が停止された。同じシステムを使う札幌、名古屋、福岡の取引所も売買停止となる前代未聞(ぜんだいみもん)の事態である。もちろん日経平均や東証株価指数などの指標も算出できなかった▲株式売買を「立ち会い」と今もいうのは、場立ちによる身ぶり手ぶりの売買の名残である。それがすべてコンピューター化されすでに21年。過去に売買が全面停止になるシステム障害もあったが、終日続いたのはむろん初めてである▲今さらいうのも何だが、ニューヨークやロンドンと並び称される証券市場の突然の全面売買停止など一度なりともあってはならないことである。東証によれば、障害はサイバー攻撃によるものではなく、機器の故障が原因と分かった▲コロナ禍ですっかり露見した日本社会のデジタル化のお粗末だが、金融の基幹システムにしてこれでは嘆息せざるをえない。世界中の投資家をあぜんとさせた東京市場のブラックアウト(通信途絶)である。

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