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社説

学術会議6氏任命せず 看過できない政治介入だ

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 学問の自由を脅かす、重大な政治介入である。

 日本学術会議の会員改選で、推薦された候補者105人のうち6人を、菅義偉首相が任命しなかった。1949年の会議創設以来、極めて異例の事態だ。

 6人はいずれも人文・社会科学の専門家だ。安全保障法制や「共謀罪」創設など、安倍晋三前政権の重要法案について批判的な意見を述べたという共通点がある。

 過去の発言に基づいて意に沿わない学者を人事で排除する意図があったとすれば、憲法23条が保障する「学問の自由」を侵害しかねない。首相は今回の措置を撤回すべきだ。

 学術会議は、優れた研究や業績のある科学者で構成される。全国87万人の研究者の代表機関であり、「学者の国会」とも呼ばれる。活動費は公費で賄われるが、日本学術会議法にその独立性が明記されている。

脅かされる学問の自由

 会員を改選する際は、学術会議が候補を選び、推薦に基づいて首相が任命するというルールが定められている。政府は従来、改選時には推薦の通りに任命してきた。

 学問の自由と自治を尊重するという思想に基づく。選考方法が選挙制から推薦制に変わった83年には、国会で学術会議の独立性について問われ、大臣は「任命行為は形式的なもので、推薦された者をそのまま任命する」と答弁した。

 ところが今回、加藤勝信官房長官は「任命する立場に立って精査していくのは当然」と説明した。これは過去の国会答弁と矛盾する。法解釈を変えたのなら、経緯を国会で説明すべきだ。

 学術会議は、任命しなかった理由をただす一方、6人を改めて任命するよう求めることを決めた。政府はきちんと回答しなければならない。

 先の戦争で、多くの科学者が政府に協力させられた。軍部が湯川秀樹ら物理学者に原爆開発を命じたことは広く知られる。思想統制を進める上で障害となる学者は排除した。京都大の法学者が弾圧された滝川事件や、「天皇機関説」を唱える学者が不敬罪で告発された事件がその典型だ。

 こうした反省に立って、学術会議は作られた。あらゆる分野の専門家が立場を超えて集い、政府への勧告などを行ってきた。

 ノーベル賞受賞者の朝永振一郎が会長だった67年には、軍事研究に関与しないとの声明を出した。50年後の2017年にも、軍事転用が可能な研究への関与に慎重な姿勢を改めて示した。

 政府は科学技術振興を国の成長戦略の柱と位置づける。一環として防衛装備庁は、軍事転用が可能なロボット技術研究などを支援する制度を創設した。だが、学術会議の声明の影響もあって、応募は思うように増えていない。

 政府が今後、人事権を突破口に自然科学へも介入を始める可能性は否定できない。国立大の学長人事にも影響が及びかねないとの懸念が出ている。

危険な人事統制の拡大

 安倍前政権は、内閣人事局を通して中央省庁幹部の人事を一元管理し、官僚統制を強めた。政権の意に沿う者だけが重用され、異論を唱えれば冷遇される。そんな空気に官僚は萎縮し、政と官の関係はゆがんだ。その中心にいたのが官房長官だった菅氏である。

 象徴的なのは、内閣法制局長官の人事だ。集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更に備え、内部昇格の慣例を破って外務省出身の容認派をトップに据えた。

 検察庁の人事でも、「首相官邸に近い」と目された元東京高検検事長の定年を、法解釈を変えて延長した。

 通底するのは「私たちは選挙で選ばれている」という、前政権から続く意識だ。選挙で勝てば全て白紙委任されているとの発想につながっている。だが、権力は本来、抑制的に行使すべきものだ。

 菅首相は、政権の決めた政策に反対する官僚は「異動してもらう」と明言し、都合の良い人物を要職に就けることで政策を進めようとしている。

 既に、強引な手法の弊害が明らかになっている中、学術界にもそれを持ち込もうとするなら看過できない。

 科学は文化国家の基盤だ。異論や反論を排除しない自由な環境から科学は発展する。そうした環境が損なわれるようでは、日本の未来はない。

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