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N響9月公演サントリーホール

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下野竜也(中央)とNHK交響楽団。4本のホルンのための小協奏曲より=9月23日、サントリーホール (C)NHK Symphony Orchestra,Tokyo
下野竜也(中央)とNHK交響楽団。4本のホルンのための小協奏曲より=9月23日、サントリーホール (C)NHK Symphony Orchestra,Tokyo

 NHK交響楽団の定期公演に代わる「9月公演」の第3弾は23、24日の両日、サントリーホールで開催された。指揮は下野竜也、シューマンの4本のホルンのための小協奏曲ヘ長調、コダーイの「ミゼレーレ」(下野竜也編)、シューマンの交響曲第4番ニ短調というプログラム。コンサートマスターは伊藤亮太郎、取材したのは23日。

 この日も感染防止対策のために聴衆の入館時の検温と手指消毒、マスク着用が義務付けられ、客席は目算で約35%の収容。終演後、ブロックごとの時差退館が実施されていた。ステージ上は弦楽器が第1ヴァイオリン10、第2が8、ヴィオラ6、チェロ4、コントラバス3、管楽器は譜面の指定通りと小編成で、奏者同士の距離もしっかり保たれていた。開演前、ホール内ではマスクの装着を続けること、ブラボーの掛け声は禁止、客同士の会話も控えるようにとのアナウンスが何度か繰り返されていた。こうした様子を見ていると筆者は医学の専門家ではないのであくまで個人としての感想ではあるが、クラシック音楽のコンサートに限ってみれば、感染拡大のリスクはそう高くはないなとホッとした気持ちになる。

 12日のNHKホールでの公演に関してのリポートにも記したが、弦楽器編成が通常の16型に比べるとほぼ半分の人数という小さな編成ながら、オーケストラ全体は驚くほど豊かに響く。N響の奏者ひとりひとりのポテンシャルの高さと、すべてのプレーヤーが共通のサウンドイメージをもって演奏しているこのオケならではの特色が伝わってくる。

 また、サントリーホールの響きも際立っていた。同ホールのホームページによると満席時の残響時間は2.1秒とあるが、35%の収容だとフォルティシモの和音の響きが完全に消えてなくなるまで約3秒(筆者の腕時計による計測)を要していた。こうしたN響のサウンドを聴けるのは今だけではないだろうか。

 4本のホルンのための協奏曲はN響ホルンセクションの福川伸陽、今井仁志、勝俣泰、石山直城の4人がソリストを務めた。彼らが織りなすハーモニーは力強く安定したもので、第2楽章では和声の微妙な移ろいが美しく響く。ここでもこのオーケストラの技術力の高さが分かる。N響は1982年6月の定期公演でもこの曲を取り上げている。指揮はハインツ・ワルベルクで1番ホルンを当時、世界的名手として知られたヘルマン・バウマンが担当、残りの3パートを田中正大、松﨑裕、山本真のN響メンバーが吹いた。今回は全パートが自前だったことに加えて、高い水準の演奏を聴かせてくれたわけで、約40年の間にN響をはじめ日本のオーケストラ全体の実力が飛躍的に向上したことを示す象徴的な演奏であった。

 メインの交響曲第4番はキリッと引き締まった緊張感の高い音楽作りがなされていた。下野の解釈はロマンティシズムに過度に流されることなく、要所をしっかりと押さえて曲の構成感を明確に提示するもの。21世紀の今にふさわしいシューマンであり、小編成のオーケストラがこの解釈の意味合いを雄弁に語ってくれた。第4楽章のコーダは一気に駆け抜けるかのような高速テンポであったが、一糸乱れぬN響の合奏力には感心させられた。

(宮嶋 極)

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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